いきなりだと思う。でも、この想いに一欠片の偽りもない






「ダメだ。今なら好きすぎて死ねるかも」






 世の中には何にでも容量というものがある。所謂、ここまでしかはいりませんよ。的なアレだ。
 それは物理的なあれこれは当然のことで、そうでないものにも当然のように適用される。例えば怒りだったり、恐怖だったリ。
 そして、好意だったリ。


 叩きつけるように閉じたドアに驚いて、松本は珍しく真面目にこなしていた書類仕事から顔を上げた。
 この隊長室に無許可で入ることのできる人間は部屋の主だけだ。部下は当然のこと、他隊同格の隊長たちだとて声をかける。唯一そのあたりが微妙だった隣隊も一切書類仕事を手伝わない・遊ばないの徹底によって、この十番隊へのマナーは常識内におさまるようになった。快挙である。
 いったいどこの不調法者かと思ったというのに、そのあまりに意外な人物にぽかんと松本は口を開け、おそるおそる呼びかけた。
「たいちょう?大丈夫ですか?」
 無言のまま、日番谷は応接のソファに深々と座った。力尽きたというか、疲れ果てたような仕草でぐったりと俯いてしまう。
 常にない様子に心配になり、松本は日番谷の足元に座り込む。覗き込むようにして目に入ったのは、白皙のかんばせが薄紅より赤く染まり、首筋も耳朶も色づき、大きな翡翠の眸がゆるやかに艶を放って潤んでいた。
 眼福。を通り越して毒である。猛毒すぎる。どんな相手でも一撃で殺せる毒だ。
 普段の清廉な姿は何処に行ったのか、小一時間ほど問い詰めたい。だが、この毒のような艶姿を誰にも見られることなく、瞬歩で戻って来ただろうことには拍手喝采したい。見られていたら、今もうえらい騒ぎになっている。
「たいちょう…?」
 そっと呼びかけて伸ばした手を、日番谷は躊躇なく掴み、項垂れるように額に押し当てる。
ダメだ。今なら好きすぎて死ねるかも
 己がことながら呆れたと言わんばかりの口調でありながら大事そうに言われた言葉に松本が瞬き。
「それは光栄だ」
 いつのまにか、ドアの内側に佇んでいた六番隊の隊長がおだやかに応じた。





                        Fin     13/05/16   14/06/22
 ライトでポップ?な白日にいってみた。兄様がヒツに何を言って、目に毒なヒツをつくったのかは想像にお任せします。きっと素でこっ恥ずかしさのあまりゴロゴロしたくなるようなことに違いない。考えてないけど。プロポーズじみてたのかな。
 兄様とヒツはきっと気が合うと思う。きっと原作でも仲良しになれると信じている。
 後、十番隊主従コンビは下手な恋人夫婦より距離間が近い。精神的な意味で近いから気づけばスキンシップが過剰気味に。いや、きっと松本はスキンシップ好きだと思う。ヒツに対しては特に。
 なので、勘違いしそうなヒツのアレコレの行動も、驚異の主従愛で起こりません。松本は死ぬまで付き従うのみ。自分の最後の隊長はヒツだと思ってるし、ヒツの最高の副官は自分だと自負している。ヒツはヒツで背を預け、隊を任せられる唯一だと思ってる。意に反することはないとお互いが知ってる。すれ違わない最高的最強主従愛。
 あとがきが十番隊主従になったので、おまけ。



 礼儀に自他ともに厳しい朽木の唐突な登場に驚く間もなく、おだやかな笑みをはいた朽木が日番谷の細い頤を上げさせる。
 目に毒な日番谷が聞かれた言葉に羞恥で更に艶めくも、朽木は日番谷のその様に驚くこともなくやさしげな笑みを口端に刻んだままゆっくりと日番谷のくちびるを骨ばった男にしては細い指でなぞった。
「びゃ、くや…」
「私もだ。私もお前のことを思うと心臓が握りこまれるように思う。お前に私の想いを余さず見せることができればよい」
 この二人の交際が明らかになったら、護廷に激震が走るだろう。その間違いない予想に、状況を忘れて互いのことに入りこんだ二人を横目にして松本は気が遠くなった。
 ただし、日番谷が幸せであれば他のことは些末事だと言い放つ彼女は、仲の良い恋人の様子に妬くでもなく満足している。











「キミの『好きな人』になりたいんだ」






 物事において、最も重要なことは見極めだ。というのが安原の持論だ。何をし、何を為すかにしても、ボーダーラインは知っていなければならない。許される限界、触れてはならない一線。
 だが、最後に必要となるのは、踏み越える勇気一つだ。


 聞いた言葉をうまく消化できず、ぱちりぱちりと困惑げに瞬く麻衣へ安原は安心感のあると定評の笑顔を向ける。
 さっきの今で、いつものような効果は期待できないが、何か企んでいそう、と言われるそれは勿論のこと、真面目すぎる表情よりも人の心に入りやすいと経験で知っていた。
 案の定、ちょっと力の抜けた笑顔を返し、一拍置いてから「ええぇ!?」という悲鳴と共に麻衣の顔色は真っ赤に染まった。言葉が脳まで染み込んだようで何よりである。ついで、所長が所用において事務所にいなくてよかった。
 煩わしいものが嫌いのはナルもリンも同じだが、一定ラインを越えた人間へはリンのほうが寛容で、多少の賑やかさは黙認してくれる。ついでに、その対象が麻衣になるとむしろ微笑ましいと見守り、時には当人も自ら話に混ざるほどだ。 今回の麻衣の悲鳴は驚きに占められており、負の感情がない。黙認の方向のようだと沈黙を保つドアに視線を走らせた。
 単語にすらなっていない言葉を零しながら漸くのこと麻衣は「や、すはらさん」とプチパニックから少しばかり脱却して安原の名を呼ぶ。その目線がうろうろと右から左へと動く様に動揺未だ収まらず、とメモを取る。このまま押すべきか、それとももう少し落ち着いてもらうべきか。
 迷いは一瞬。
「谷山さん。僕はキミの『好きな人』になりたいんだ
 胸元で所在なさげにしていた小さな両手をすくいとり、心持ち覗き込むような視線で安原は本日二度目の告白をする。
 若干、動揺に付け込んでいる気がしないでもないが、下手に待ちの態勢の時に誰かが来れば麻衣は混乱のまま逃げだすだろう。勿論、そうなってもそのままにする気は安原にはないが、その間に麻衣がどういう思考をするかは想像しきれない。
 リスクは少なく、そして機は逃すべきではないのだ。
 泣きそうなほど真っ赤になった麻衣をかわいそうだなと思う心はある。だが、それより欲する心があるのだ。
 今、麻衣は誰のものでもない。だから。
キミの『好きな人』になりたいんだ





                      Fin   13/05/19   14/06/22
 またもや安原麻衣で告白。告白好きなんです。初々しくて。
 正直な話、このお題うちのカプの中だと言いそうなのがいなくて難儀しました。そしたら、ほら。この間の安原さんが「あ、僕言いますよ」とおっしゃってくださって。











「君じゃなきゃ好きだなんて言いません」






 ずっとずっと触れたいと思っていた。
 彼に手を伸ばし、手を握り、泣きそうな目元をなぞり、怯える体を抱きしめたいと。
 話したことなぞ、殆どありはしないのに。
 それでも、その慾は強くなることしか知らなかった。


 見かけたのは偶然だ。グランコクマに来ていることは部下から報告を受けていたが、だからといって常に詳細を聞いているわけじゃない。何とも言えない表情の部下からの彼の周囲に誰もいないという、いつ聞いてもありえない状況に相変わらず立場諸々を理解も弁えることもできていない同行者たちを内心罵った。
 ルークにはマクルトに入った時点で影で護衛がつくよう命令が徹底されている為、彼を害することはできないが、そんなこと同行者たちは知らないのだ。
 ルークには被験者を名乗る存在があり、事実レプリカであるが、それでも未だ彼自身が継承権三位を賜る王族のルーク・フォン・ファブレに他ならない。キムラスカからの公式声明によって保障されている。それが示す意味にきっと気付いていないのだろう。
 ふらりふらりと楽しげに街を見ているルークが公園に入るのを見届け、護衛に指示を出してフリングスはルークの後を追った。
「ルーク様」
 ベンチに座ってぼんやりと噴水を眺めるルークに声をかけると朱色の髪が揺れ、大きな翡翠に自身が映ったのを感じフリングスはおだやかといわれる顔を更に笑ませた。
「フリングス将軍」
 何度か、それこそグランコクマに来る度に顔を合わせてはいるもののあまり話したことのない相手に声をかけられ、ルークは小さく目を瞠った。驚いているのはわかっているものの、フリングスは気づかないふりで隣に座る許可を得る。
 僅かな緊張は少し話すうちに溶けてなくなり、おだやかなフリングスの雰囲気と素直でいて素直でないルークの返答で途切れず楽しげに続く。
 気がつけば時はとっくに過ぎ、周囲を照らす光はルークの髪と同じ朱色に変わり、あたたかく染める。
 不意に訪れた沈黙の瞬間、先程までとても楽しかったのに空気が重さを変えた気がして、ルークは隣のフリングスを見上げた。
 そこにいたのは変わらずやさしい眼をしているのに、どこか違って見える男がひとり。
「将軍?」
 どうかしたのかと言う代わりに呼び掛け、ルークは息を飲む。経験値などないルークの、それは本能の一端だったのだろう。
「好きです」
 前振りも何もなく、ただ真摯に言葉を綴った。声に想いを乗せた。
「今まで碌に話したこともないのに、と貴方は思うでしょう。けれど、貴方の顔を見、声を聞く度に、貴方を思うのです。
 貴方の隠したものを包む許しを得られれば、と」
 じっと見つめられながら、フリングスはゆっくりと手を伸ばす。嫌なら逃げられるように。目を逸らす、拒絶を受け入れるように。手を伸ばしてルークの手を包む。
「冗談でも嘘でもありません。
 好きです。貴方じゃなきゃ好きだなんて言いません。貴方が好きです」
 ルークははくりはくりと空気を食んだ。驚いて、泣きそうなルークの眼をじっと見つめる。ルークの、無実は国が保証したのに、それを理解できない同行者たちに貶められ続けたその傷ついた光を。
 わななく唇を求めたフリングスに、ルークはゆっくりと目を閉じた。





                      Fin13/05/25   14/06/23
 意外と押せ押せのフリングス氏。接触が低かったわりに好感度が高いフリングス氏。人間性は大事です。そして無自覚に惚れたルークです。
 ついでにこの時のフリングス氏は私服巡回中でした。犯罪の発見より陛下がサボりそうなところの目星をつけるのが目的です。勿論、れっきとした職務です。でも、途中で護衛にチェンジ。他国の王族の護衛のほうが優先度高いから。護衛中の部下よりフリングス氏のほうが腕が立つし。仕事といえば仕事なんだけど、棚ぼたって言うより抜け道的な?上が上(陛下)だから誠実なわりにそういうこともできるようになりました。
 この話では両国1団体のトップは原作よりまとも。ルークは道々で鳩を双方に飛ばしてました。なのでアクゼリュスでもルークからの鳩でマクルト側の救助があり1万人は死んでいないし、ルークは親善であって救助が仕事ではないことを知ってます。
 ヴァンを盲信してもいないので、暗示を使っての崩落です。周囲の思い込み私刑に、誰も自分の言うことを信じるどころか聞いてもくれないことに傷ついているけど、自己否定の人形にはなってません。ちょっとだけど、ちゃんとわかってるルークは傷つきながらこいつらバカだなって思ってる。
 キムラスカは当初預言にある繁栄の為ルークを預言通りに殺すつもりでしたが、度々届く報告と言う名の愚痴と疑問と心配にアクゼリュス崩落後は心を入れ替え、ルークを立派な国王にしようと決定しました。ナタリアも自称オリジナルもひどすぎるので。
 ちなみに心を入れ替えたトップたちなのに同行者共がそのままなのはヴァンたちに対する釣りです。あと彼らが自分たちの罪を自覚できれば、という恩情。無駄っぽいけど、恩情。
 なので、文中にあるようにマクルト国内ではマクルト軍から他ではキムラスカ軍から影の護衛がついています。ルークは説明されています。護衛たちは奴らの言動にプルプルしてる。怒りで。











「あのね、大好き」






 女は度胸。女は度胸。呪文めいた調子で何度も呟く。声に出して聞き返されると困るので、勿論心の中でだけだ。
 己の根城ともいうべき給湯室で麻衣は何度目かの覚悟を決める。何度目か、なのはこれまでのは途中でくじけてしまったからだが、そろそろ決めたい。というよりきちんと言葉にしたい。
 もう1月末だ。想いを告げられてから半年以上待たせている。こちらの混乱ぶりを理解していた彼は、返事は急がなくていいと時間をくれたけれど。けれど、既に半年なのだ。春が来ればあっという間に1年が過ぎてしまう。そんなに待たせたくはないし、何よりバレンタインだ。
 あと半月でバレンタインになる。相談した友人にはいっそのことバレンタインに言えばいいと言ってくれたが、麻衣としてはそれより先に決着をつけたい。折角ならば、あの時の告白が今も有効ならば。バレンタインを恋人として過ごしたいと思うのだ。
 だから、そう。女は度胸なのである。少なくとも、麻衣にとっては今が度胸の使いどころだ。
 いつものように邪魔が入る前に。タイミングを失う前に。麻衣はよしっと気合を入れて、淹れた紅茶に手を伸ばす。
「谷山さん?何かありました?」
 けれど、いつもより遅い麻衣を心配して安原がひょっこりと顔をのぞかせる。ばっと振り返った麻衣に小さく驚いたように目を瞠りながらも準備された紅茶に目を向け、柔和に笑んだ。
「持ちますよ」
 麻衣の代わりに茶器の乗ったトレイに伸ばされたその手を、はっしと麻衣は掴んだ。
「あ、あの!やすはらさん!」
 緊張のあまりひっくり返った声で慌てて麻衣は呼びかけた。
「谷山さん?」
 はて、と常ならざる挙動不審っぷりも甚だしい麻衣に首を傾げた。
「あ、あの!あの、ね。あのね、大好き
 頬どころか顔中、耳や首に至るまで真っ赤にして、麻衣は心意気だけは叫ぶように言った。ぎゅっと目をつむり、ぎゅうと放すのを忘れた安原の手を握りしめる。
 後に、安原は述懐する。あのとき、麻衣が目をつむっていてくれてよかったと。越後屋の異名をとる安原にしてはあるまじきことに麻衣と負けず劣らず赤い顔を晒していたからだ。
「はい。谷山さん」
 握られた手を握り返し、年相応の照れた顔で安原は笑う。
「僕もあなたが大好きです」





                      Fin      13/05/29   14/06/25
 またも告白。好きなんだ告白。でも、今度は両想いです。2の続きでもいいかもしれない。でも、そうすると結局安原さんは待ってくれたんだなぁ。
 このお題もやっぱり該当カプがいなくて(十番隊主従はちょっと違う。乱日も)GHがやってくれました。
 リン麻衣も好きなので、両想いの日常ほのらぶ1コマとかも思ったんですが、浮かばなかった。難しい男です。林さん。そして、カプだろうと違かろうと安原さん贔屓。イイ男です。











「何言ってるの、君じゃなきゃ要らないから」






 取捨選択は選ぶものを決める為の考えの一つではあるが、世の中には絶対がある。
 代わりのない唯一無二。必ず傾ぐ天秤。選ばれるべくして選ばれる。至上。


 背筋がぞくぞくと震えるような得も言われぬ感覚にうっとりと笑む。被り続ける仮面の下で漸く得ることのできた本物の感情に、どうしようもない喜びに支配される。
 待っていた。待っていたのだ。
 この人を。この人こそが。
 沸き上がる感情が囁いて囁いて。それは奔流となって市丸を襲った。呑み込むようなそれは激情を知っていた。
「日番谷はん」
 呼びかけた名に翻る白。十の字を染めたその羽織を背負う、背は小さい。市丸の記憶にあるそのひとは今の市丸より心持ち低いくらいの背丈であったけれど。
 その夜の闇をはじく銀もうつくしい翡翠も、射抜く眼差しの強さも。
 そのすべてがそのひとだという。
 彼を救ってくれた、探し、いつかもう一度巡り会うと決めたそのひとだと。
「市丸か」
 同格に上がってきた日番谷と、戯れるように言葉を交わした。生真面目でやさしい日番谷は邪険にする様子と裏腹に決して拒絶しない。
 話し出すタイミング、呼気の間隔。指先の動き、首の角度。伏せられた睫毛の長さ。向き合う視線の強さ。そのすべて。
「好いとうよ、日番谷はん」
 唐突だと、思われてもよかった。憶えている素振りを見せてはくれぬその人へ、だから市丸は告げる。幼い日、唇をふるわせても言葉にできなかった、その気持ちを。
「言う相手が違うだろ」
 自身の副官が市丸の幼馴染みともいうべき間柄であると聞いていた日番谷は、僅かな呆れを覗かせる。そこに揶揄われたという怒りの感情はなかった。
「違わんよ。ボクが好いとるんも、欲しいんも、君やもの」
 市丸は眼差しをひたと当てる。かつて、同じ色だとそのひとが言ってくれた翡翠の眼を。
「だが、」
何言うてはるの、君やなきゃ要らんから。信じてくれるやろ」
 なぁ。冬。
「………ギン?」
 絶対に必要な、戴く 主上。





                       Fin     13/05/29   14/06/26
 水鏡IF。本筋で暴露はもっと後の予定なので。これは再会して早々。ヒツの入隊時にもしかして、と思って同格になって行動するようなので、手っ取り早くヒツの仲間に入れてもらいたかったんでしょう。我慢できないから。
 ヒツが気付かなかったのはやっぱり、あのギンがこんな捻くれちゃったとか!って愕然としてます。
 で、ヒツにのみ素直で甘えたなギン、という怪奇現象が十番隊とか口の堅い周囲で出没。十番隊は隊長が認めてるならそのまま受け入れるし、始めネタろうと思ってた大人はあまりにもな態度の違いに意図を感じて黙りました。







リコリスの花束を