SIGNAL
SIGNAL
信号が赤に変わる前に走って渡った交差点の先に、見覚えのある顔。
「浩多…!」
「英明さん?」
感動の再会と言うべきか、運命の初対面と言うべきか。
「お久しぶりです」
はにかんだ笑顔を見せながら、浩多が先に口を開いた。
「久しぶり」
珍しく頭が混乱しかけている中で、努めて冷静を装って英明も答える。
時空を越えた幻のような経験から戻ってきて早数週間。
時折、やはり夢だったんじゃなかろうかと思うこともあったが、
確実に上がった弓道の技量と胸を震わせる想いに、夢ではなかったことを再確認していた。
浩多に会えたら言いたいことはたくさんあった。
向こうでの告白は決して巫山戯たものではなかったし、自分を忘れられない躰にしてしまおうと思ったことだってある。
けれど触れた温もりを忘れられなかったのは自分の方で、こちらに戻ってから思い出しては吐息を漏らしながら眠りについていた。
そんな英明の混乱など気付くよしもなく、浩多は相変わらず笑顔のままだ。
「向こうであった人にこっちで会うのは英明さんが初めてですよ」
と嬉しいことを言ってくれる。
「お元気そうで何よりです」
「浩多もね」
素っ気なく返すのは、ほとばしる感情を持て余しているから。
こんな自分を英明は知らない。
「どこか行くところ?」
やはり簡単な言葉を紡ぐ。
「まあ、いろいろと買い物しようかと思って」
「だったら…」
言いかけたところで、ポケットに入れた携帯が鳴りだした。
取り出して見てしまった背面ディスプレイには遠くに暮らす従兄の名前。
駅に迎えに行く、と言って家を出てきたが、すっかり忘れていた。
チッと気付かれないように舌打ちをする。
「携帯、鳴ってますよ」
浩多が言うので仕方なく電話に出た。
「もしもし」
『あ、英明、今どこにいるのさ?!待ちくたびれたよ、僕は』
「タクシーでも何でも使って自力で来て。急用ができた。じゃあな」
『え?あ』
ブツと乱暴に通話を切り、ついでに電源も切る。
「いいんですか?待ち合わせの人がいるんでしょ?」
「いいんだよ、暇つぶしに遊びに来た親戚だから」
苦虫を潰すように英明は言う。
「それにしては随分、対応が乱暴だったみたいですけど」
「気にしないで」
「そうですか…で、さっき何を言いかけたんです?」
「ああ、暇なら付き合わない?」
英明が言うと浩多は細い目をすぅと見開いた。
「それは、向こうの続きですか?」
敢えて細かいところは言わないのが浩多だ。
英明は、それだけの情報で言わんとしていることを理解できる人間だと知っているからでもあるし
公衆の面前で大声を上げて話すのは憚られる内容だからでもある。
英明としては、その反応は予想外のものだった。
ただ純粋に、時間があるようならスタバなりドトールなりで少し話をしようと思っただけだったのだ。
しかし、浩多の方からそういう話が出てくるということは、まったく脈がないわけではなさそうだ。
「そういうことを前提の付き合いでもいいよ」
彼としては最上の微笑みを見せた…のだが。
「人のことほっといて何やってるかな?」
ふいに声がして、後頭部に痛みが走る。
痛む箇所を手で押さえ後ろを振り向くと、ボストンバックを肩にかけた従兄の姿があった。
おそらく、そのバックを英明の後頭部に当てたのだろう。
英明と似たような体型、しかしその顔は見たことがある。
「イェン!?」
浩多が珍しく動揺を滲ませた声をあげる。
不可解な表情を向ける従兄と、不信感を露わにする浩多の間に立ち、英明は深く溜息を吐いた。
「ごめん、浩多。こいつ、俺の従兄」
「いとこ…?」
これまた珍しく、浩多がぽかんとした表情をした。
「こいつとは失礼だなー、英明のくせに」
「さっさとタクシー拾って、うちに行ってて。邪魔だから」
手で追い払う仕草を見せる英明に、彼の従兄は大袈裟に返す。
「うわっ、遠路はるばる遊びに来てやった従兄に対する仕打ちがこれ?」
「誰も呼んでない」
「ひどーい。ね、君も非道いと思わない?」
何を思ったか浩多に話を振るから、英明の怒りのボルテージはどんどん上がっていく。
「浩多は関係ないだろう?」
「へー、浩多くんって言うんだ。いい名前だね」
「ありがとうございます」
とりあえず対外用の笑みを返す浩多。それを見た従兄の口から言葉が漏れる。
「かーわいいなぁ」
双方にとって聞き捨てのならない言葉だ。
「あ、俺、こいつの従兄の俊哉っていうんだ、よろしく」
「…どうも」
差し出された手をとりあえず握り返す浩多だったが、その様子はどう見ても不承不承というもので。
英明の中で、ようやく合点のいく事実が一つ。
“なぜ、向こうで俊雅とイェンが気にくわなかったのか”
なんてことはない。
目の前で浩多を口説こうとしている憎き従兄に、性格と顔がそれぞれ似ているからだ。
★あとがき★
地雷の品のリク。
「現代に戻ってきた英明と浩多、イェンそっくりな英明の従兄に驚く浩多」でした。
私は郭多紀←潤暁なので、趣味に走りまくってみた結果がこれです。モテモテ浩多(笑)
きゅあぁぁぁぁ!!(奇声)
ありがとう。悠姫嬢。素晴らしいよ!
リクってよかった。さすが私!
何事も言ってみるものだと思うよ。
英明ったら大変だね。苦労してね!
今後もよろしくです。
2004/11/04