こういう理由でした





 大学の入学を一週間に控えた日のことだった。
「彰。これ」
 克己はシンプルな包装紙に包まれた、掌におさまる大きさの箱を差し出す。
 寮の移動も終わり、克己が淹れてくれたコーヒーで休憩を取っていたときだ。
「なんだよ」
 訝しみつつも彰はそれを受け取った。過去の経験上彼が彰の嫌がることをこういった形では決してしないと彰はよく知っていた。
「言うなれば、卒業祝い、兼、進学祝、かな」
「何言ってんだ?お前。どうせ持ち上がりじゃねぇか」
 彰が呆れたような声を出し、克己は困ったように笑った。だが、それ以前に同い年の同じ状況の彼らだ。
「まぁ、確かにそうだが。内部でも一応、一般入試の試験もやったのだし。
 でも、正直なところはこれから四年間もよろしくというところだ。
 取り敢えず、開けてくれないか」
 そう言われ、彰は包装紙を丁寧に剥がし始めた。破れないようにテープを剥がしつつ、
「つーか、何で大学まで二人部屋なんだよ。普通一人部屋じゃねぇの?」
「そう零すなよ。寝室が分かれただけましだろう」
「勉強中は変わんねぇじゃねぇか」
「わからないことがあったら聞いていいぞ」
「…学部違いすぎるっつーの」
「気にするな」
「………」
 包装紙を綺麗に折りたたんで、机の上に置いて蓋を開ける。
「おい、これ…!」
 表れたのは、淡い黄色の衝撃吸収材の上に鈍銀にびきん色のオイルライタージッポが鎮座している。彰が好きなシンプルのそれ。
「気に入らなかったか?」
 不安げに顔を曇らせた克己に、彰は違う、と首を振る。
「ば、そうじゃなくて…」
 彰が何度となく店で見たそれは、それなりに値の張るもので、それ故に手を出せずにいたのだ。
 それを惜しみもなく。
「じゃあ、貰ってくれ」
「…さんきゅ」
 俯き加減で礼を言う。掌の中にジッポをおさめ、壊れ物を扱うようにやさしく表面を撫でた。
「だが、喫い過ぎるなよ。スポーツをやっているんだから。それに何より体に悪い。だから…」
 ライターをプレゼントしておきながらそんなことを言う克己に、内心では心の中心にほっとあったまるようなものを感じていながら、わかるように苦笑した。
「あー。わかった、わかった。ほら」
「何だ?投げ返して」
 弧を描いて手の内に落ちたライターを克己は不思議そうに見た。
「お前が持ってろ。喫うときはそれ使うから、それなら本数もわかるから心配ねぇだろ。多いと思ったらお前が止めな」
 挑発するように右の口端を上げて克己を見た彰に、
「そうさせて貰おう」
 これは常に側にいることが必然として前提にあるのだが、克己はやさしく微笑った。




    あとがき
 というわけで、克己さんが彰のライターを持つことになった話です。
 ついでにライターを上げたのも克己さんだったと言う話でした。




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