まず目に入ったのは転がった二頭の猪――もとい一頭の猪と良平の姿。その間を流れる赤いものにギクリとする。しかしもう一人の人物の真剣だが困ったような顔が良平ではなくむしろ猪に向けられていることから察するに、事態はそう悪くはないようだ。
「翔太郎!」
「あ、星史さん。洋樹さんも」
翔太郎の顔が明るくなる。
「どうした」
「よかった。どう考えても僕一人じゃ運べないし、誰かを呼びに行っている間に良平くんが起きたらまたどっか行っちゃうかもしれないし―――」
どうやら少し混乱しているようだ。星史は翔太郎の肩に手を置き、落ち着くように促した。
「その前だ。良平に何が起こったんだ?」
「良平くんが危ないと思って。来てみたら倒れていて。敵は今度は僕に向かってきて。そしたら良平くんが起きてきて。青い光が―――」
「まさかコイツ覚醒めたのか?」
良平の左手を凝視して洋樹は呟く。勾玉は自分や星史のものとはあきらかに違う光り方をしていた。
翔太郎がコクリと頷く。
「敵は? 前にも来たヤツか?」
「いいえ。見たことない人です。僕は名前は聞いてないんですけど」
「オレは良平だっ! 赦さねぇぞ、栄二!!」
敵の名を知る唯一の男は、絶妙なタイミングで寝言を言った(叫んだ?)。
「栄二というらしいな、どうやら」
三人の顔に苦笑が浮かんだ。
夕暮れが近付く頃になると、槍・剣組の八人は疲れきっていた。あの後新たな敵襲があったから、ではない。彼らは今までにない集中力とチームワークを発揮し、一頭の猪をさばくことに(とりあえずは)成功したのである。
見た目に不安の残る久しぶりの肉料理はその大半を良平と誠の腹を満たすことで消えていった。
誠と遼が見つけたはり出した崖の下。とりあえずの寝床となったその場所で良平に改めて詳しい話を聞く。
「あれ?」
要領の得ない話の途中、良平は空を見て首を傾げる。
「どうしたの? 良平くん」
「今度は黒だ」
全員の視線が良平が見つめる先に向けられる。が、何の事を言っているのかわかるものはいなかった。
「さっきは白だったのに」
「何が?」
「煙みたいな、変なのが見えるじゃん」
「見えねぇよ」
訝しむように結太は良平をにらんだが、星史は了解したように良平を見た。
「白虎と玄武が一人ずつ覚醒めたってことか」
そう言った自分が焦れていることを知っていた。
この八人の中で、槍組の中で一番に覚醒めたのが良平だったこと。最初に覚醒めた英明は誰より武器を自分の物にしていた。そして自分は槍組の中で最も武器に慣れているという強みからか、他の三人より早い時期に覚醒めることを当然として予測していたのだ。良平がまず覚醒めたことがショックでなかったとはいえない。
それにしても覚醒とは何なのだろう。
大輔あたりなら、そう、三人も覚醒めたあちら側なら、少しはそのシステムを解明しているかもしれない。
「羽山、小山、そして小早川の場合で共通するのは仲間が負傷したということだな。怪我の程度は大量の出血をともなうかなり深刻なものだった。仲間といったが羽山と小山の時は同じ属性の者だった。しかし小早川は北沢と属性は一致しないので前の二件が遇々だったのだろう。むしろ個人的な感情との関係が強いのかもしれん」
「そら大怪我しよったんが一番仲えぇヤツやったら覚醒めるかもしれんな」
「条件として一番望ましい形はそれかもしれない」
「極端な話、覚醒めて欲しい人の前でわざと敵にやられれば」
「早いな。こっちにも腕のいいナースがいてはるし」
大輔の推論をもとに、京介と浩多はかなり物騒なことを言っている。この三人を中心に他は黙って会話を聞いている。
ナースと呼ばれた人影は一番遠い位置にいたが、暗い中でもそれとわかるほど盛大に顔をしかめた。実際京介が負傷した時に彰が治療するかどうかは定かではない。
「もっと大きく考えれば、“怒り”というだけのことかもしれませんね」
浩多が少し首を傾げて言う。
「それだと真美子さんの時にも当てはまるし」
「それもそうだな」
大輔は新たな仮説を色々と組み立て始めた。
「どちらにしろ、槍組の青龍が覚醒めた経緯を聞ければいいのだが」
見上げた空には満ちようとする月があった。
「四人か」
宇多は渡殿に立ち、月の下で呟いた。
「珍しく考え込んでいるじゃないか、宇多」
「高秀か」
白衣をなびかせ高秀は歩み寄り、宇多の横に立つ。
「あの御方が何かおっしゃったのか?」
「いや、なにも」
「ならばなにを迷う?」
真摯な眼差し。吹きつける風。月が雲に隠れる。
宇多は目を閉じ静かに言った。
「迷ってなどいない。ただ思っていただけだ。ようやく廻り始めた歯車のことを」
「そうだな…」
高秀も目を閉じ感慨深げに頷いた。沈黙が流れる。
「や」
そこへ邦治が渡殿へふわりと飛び込んできた。
「どうした?」
「情報が入ってね。もう一押しで覚醒めそうな奴がいる」
宇多の目が光る。
「誰を遣るのがいい?」
「康祐だな。康祐と接触のある奴だから」
「康祐を遣るとなると俊雅はどうする?」
苦笑いを浮かべながら高秀は尋ねた。
「好きにさせろ」
それだけ言うと宇多は姿をかき消す。
「俊雅の場合、止めたところでついていくに決まってるけどね」
邦治は高秀と互いに肩をすくませ、笑んでいた。
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サバイバル1日目終了。長いですね。
これでちょろっと敵方さんのほうも何かがあるらしい、というのが明らかに?
チームワークの発揮どころが猪って…。