サバイバルな行方






「サバイバルだぁ―――――!?」
 良平の叫びと共に健太は胃が疼くのを感じだ。多少予想していたことではあるが、やはり実際口に出されると現実としてのしかかってくる。
「そんなに驚くこともあるまい。見たところ、この山に猛獣はいないようだし幸い今は夏。凍え死ぬことはありえないし食用となる植物には困らないだろう。まあ、敢えて難点を言うとすれば蚊に刺されることか。それと…」
 淡々と事実を述べていく大輔に一同はまたか、という顔をしたが星史はそれらを無視して話を進めた。
「ま、そういうことだから、敵が襲ってこない限り安全だってことだよ。で、問題は寝床なんだけど、どうする?とりあえず風雨を防げる程度の小屋は作っておく?」
「俺は作っていいとは思うが、一ヶ所に固まると敵に狙い撃ちにされる心配があるだろう?」
「僕も北沢さんの意見に賛成ですね。これだけの人数ですから固まってたらバレますよ」
「だよなー」
 集団の主導権はもはや星史、克己、浩多の三人にあるらしい。他の人間は特に何も言おうとはしない。(逆らったところでどうなるわけでもなし。)
「めんどやから単純に二つに分ければいいんとちゃう?
 弓と剣に槍と太刀、じゃなかったら弓と太刀に槍と剣なんてどや?」
「じゃあ弓と太刀組、槍と剣組に分かれましょう」
「そだな。それがいちばん無難だ」
 京介の提案をさっさと決定させてしまう浩多と星史。
「んじゃ十日後にあの楠でいいか?」
 星史が指したのは現在地から四、五メートル離れたところにある楠。草原と森との境界あたりに立っていて、確かに目印としてわかりやすい。
「わかりました」
「OK。そっちも気をつけろよ、椎橋」
「誰に向かって口きいてると思ってるの?北沢。どうにかするよ、俺は」
 自信たっぷりにニヤリと笑って星史は槍組、剣組の七人を率いて南の方の森へ歩き出した。
「浩多さーん!無理しないでくださいねー!」
「ありがとう、翔くん」
 ブンブンと腕を振り、声をあげる翔太郎に対して浩多は笑顔で軽く手を振り返す。
「さてと」
 翔太郎たちを見送ると浩多はおもむろに残りのメンバーの方を向いた。
「僕たちはどうしましょうか?これから」
「ほい」
「はい、京介さん」
 律儀に挙手した京介をこれまた律儀に指名する浩多。
「食料探して集めながら寝床になりそうな洞窟を探す」
「それがいちばん単純で効率が良さそうだね」
 同意したのは英明である。
「そのようだな。まさか家、というよりは小屋だろうが、どちらにしろ建てるわけにはいかないだろう。…いや、俺たちの技術では建てられない、と言ったほうが正しいか」
「大輔の言う通りだ。そもそも道具もないし、とにかく進もう」
 そう克己は促し、弓、太刀組の八人は西の方角へ歩を進めた。
「そういや、浩多」
 歩きながら彰は声をかける
「お前、なんでこっちの分け方選んだんだ?妙に早かったけど」
 こちらの分け方にしてくれて内心ホッとしているのだが、あくまでさりげなさを装う。
「だって彰さん、もう一個のほうにしたら怒るでしょ?」
「あ゛?」
 ニコニコニコと擬態語が見えるような浩多の笑み。彰の考えなどお見通しとでも言わんばかりに。
「なんでんなことお前に言えるんだよ」
「だって彰さん、わかりやすいですもん」
 思いきりいぶかしげな眼差しを彰に向けた。
「それとも誠さんと今から替わります?」
 彰の視線は凝視に替わる。それを浩多のはなんなく受け止め、二人の間に沈黙が落ちた。
 先に視線をずらしたのは彰。くるりと浩多に背を向ける。
「バカ代と替わっても俺はいいけど、アイツが怒んだよ」
 言いながら手をひらひらと振りながら一人、先に進んだ。その二、三歩後ろから浩多はついて行き、ひっそりと笑う。
「素直じゃないんだから」


 歩きに歩き、風雨を凌げそうな場所を探す。ついでに薪木や食べれそうなものも集めていくと、
「あ、これでええんとちゃう?」
適当に木々が生えている緩い傾斜の丘に、本当に丁度良く洞窟が見つかる。
 雨が降ったとしても水が入ってこないようなのを見て、京介は呼びかけた。
「そうですね、それなりに広さもあるし。…惜しむらくは誠さんがいないことかな」
 洞窟の中で浩多は小さく呟いたが、声は反響して広がる。なにせ洞窟だ。
「どうしてだ?」
 克己が曖昧な笑みで言う。
「え?だって何かの動物の巣だった場合に彼なら気づきそうじゃありませんか」
 浩多はにっこりと笑って、ねと言う。克己は曖昧さを強め、ごく自然に彰の方を向いた。彰は彰で苦虫を噛み潰したような顔をしていた。迂闊に同意できるネタではない。
「そんなことはどうでもいいでしょ。四人がここに残って、残りの四人が食料他を探しに行く」
「ならば遠中距離の攻撃が可能な弓はなるべく残るべきだろう。あいつらだった場合は出現位置の把握ができないから想定するだけ無駄に近い。よって対敵には太刀一名で充分だと推測される。この地に猛獣の類がいないだろうとは言ったが、だからといって、肉食獣がいないというわけではあるまい。弓と太刀は三対一で残るのがベストだと俺は思うのだがどうだろう」
 どうだろうと、眼が光る。
 長広舌を聞き終えて数名が溜息をつく。
「そうだな。それがいいだろう。個々の行動まで気を配りきれはしないし…。うちは誰が残ろうか」
 太刀方の顔ぶれを見る克己に、
「俺が残るわ。別にええやろ?」
どっかりと腰を落ち着かせていた京介がにっぱりと笑う。彼は大輔が話している間に土面が湿っていないのを確認して座ってしまったのだ。ついでとばかりに欠伸を連発していた。
「勿論。そちらは?」
 口をはさむ暇もなかったのだが嫌だったわけでもなく健太は沈黙を守る。
「英明さんは残ってくださいね。敵が来た場合、あなたが一番強いんですから。僕が行きますけどいいですか」
 浩多が浮かべるのは、常に無敵を誇る笑顔だ。
「特にご不満がないようなので決定にします。じゃ、行きましょうか」
 こちらも沈黙を肯定と取り、先に決まった太刀組と並んだ。
「旦那」
「なんだ?」
 実年齢は京介の方が年上なのだが、見た目か雰囲気か、何故だか京介はそう言い、克己は気にした風もなく返す。
「キバれや」
 にっと口端を上げた男に克己はただ笑い、感じた視線の方を向いておだやかな笑みに変えて、小さく頷いたのだ。


「健太。きみは何も言わなかったけど、俺とで本当に良かったのかな?」
 二組に分かれると言う時に何故か浩多は大輔と行動を共にすることを望み、この二人組ができあがっている。
 上記の克己の問いかけは、口をはさまないまま享受した健太に向けられたものだ。
「え?は、はい。勿論です。北沢さんと一緒できるなんて嬉しいです、俺」
 健太は慌てて言った。嫌がっているなんて思われたらたまらない。
「そこまで言われるのも照れるけど…、それを聞いて安心したよ」
 二人になって交わした言葉はこれであり、後は昼時まで世間話をしつつ拾い集めていた。
「そろそろ一度戻ろうか」
 太陽が中天にあるのを見て克己が健太を振り向く。健太が頷き、来た道がわからなくならないようにと残したしるべを辿っていった。
 八人集まって昼食を取り、暫く食休みを置いて四人が再び外に行って、しばし。
「おい。何処に行く気だよ。あんた」
 竜馬のとがめる声が鋭く発せられた。壁に寄りかかって目を閉じていた英明も、寝転がっていた京介もそちらの方を向く。
 無然よりも不機嫌、無表情。それを隠しもせず、いや寧ろわざわざ発して、
「あぁ!?うるせぇな。でめぇに関係ねぇだろ。んで、俺がお前なんかにいちいち言わなきゃならねぇんだよ」
「なっ!?俺たちはココに待機なんだぞ!!勝手に行こうとしたら止めるのが普通だろ!!」
 怒らせるように言っている彰にのせられて、熱した竜馬が胸倉に手を伸ばす。彰はにやりと笑うと同時、伸ばされた手を逆に掴み足をかけて倒した。
 衝撃で一瞬呼吸(いき)がつまったが、掴まれたのと逆の手が背にした土を握る。
「きさっ…!」
「ちょーまて、な?」
 自由な方の竜馬の手に京介は己の手を重ね、土が投げられる前に止めた。冷たく見下ろす彰を見上げ、「とりあえず退いてやってくれへん?」と笑うと、元々たいしてやる気がなかったらしい彰は手を離した。壁に背の一部をあずける。
「で。彰はいきなりどうして外に行こうとしてん」
 睨むように向けた先でバカバカしくなり彰は吐き捨てるように言った。
「こんなとこにじっとしていたかねぇんだよ」
「嘘だね」
 黙って成り行きを見ていた、というより興味をもっていなかった英明が唐突に口をはさんだ。
「あんたは初めから何かおかしかった。午前中はまだじっとしていたけど、もうそうしていられなくなっただけだ。違う?」
 観察者のように英明がつきつける。
「別に理由はどうでもええんよ、俺は。せめて何しに行くんだけ言ってや」
 やわらかい口調だが彰を見る目は射るようで。
「……薬草を取りに行く」
 舌打ちと長い沈黙の後、彰は漸く言う。
「薬草?それと落ち着かんのと何の関係があるんや?」
 独白のような京介の呟きに、彰は本当に怒鳴り返した。
「うっせぇっつってんだろうが!!んなことがわかってりゃこんなんになんざなってねぇんだよ!俺だってな!!勘だけじゃどうしようもねぇんだよ!!」
 怒鳴り声にあるのはわけのない焦燥だ。
「別にいいんじゃないの勘で(俺の天気予報は百発百中だよ。勘だけど)。何より“四神の御子”っていわれる俺たちの勘でしょ。あのひとじゃないんだから、科学的証明なんていらないよ」
「それもそやな」
 京介は簡単に納得する。
 竜馬は先程の彰の怒声に驚いて息を呑んだまま固まっていた。
 彰は三人の様子を横目に見たが、それ以上何も言わず足早に出て行ってしまった。
「あ、おい!」
 再び竜馬が声を上げたが京介が後ろからはりついた。竜馬は思わず止まる。
「……おい」
「やめとけ、やめとけ。馬に蹴られて死ぬだけやで」
 どういうことだ、と首だけ動かして目で問う。
「どうもこうもあらへん。あの彰がああなるなんて、原因は克己だけやろ。旦那の身になんか起こるかもしれんなぁ…」
 京介の不吉な声が響いた。





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 こんなわけで、しばらくは槍と剣・太刀と弓の二手に分かれた状態で話が続きます。