ひどく懐かしい夢を見ていた。向こうの世界の夢を…。
毎朝決まった時間に起き、大好きな両親と顔を合わせ、学校へ行く。授業は大嫌いだったけど、友達と好きな人に会う楽しみがあった学校。
(みんな、どーしてるかな?)
あの時は退屈で平凡な日常と思っていたが、今ではとても愛しい。まだ、こちらに来てそんなに経ってはいないのに…。
このまま優しい夢に包まれていたいと思うが、何処かでそれを拒否する声がする。
―――自分にはやることがある、と。
それに、真美子は胸の奥がザワついているのを感じていた。嫌な予感。
(敵が近くにいる!)
真美子は薄暗い明かりの中で目を覚ました。辺りを見回し、戸を見つけると勢いよくそれを開けた。
遠くの方で、見たこともない奇妙な生き物が克己たちを囲み始めている。
「あっ…!」
小さく叫び走り出そうとする真美子を低い声が止めた。
「よせ。お前が行ったら足手まといだ。それに、男同士の戦いに割り込んでは無粋だ」
振り向くと、一人の男が真美子に背を向け、何かを作っていた。
「あ…なたは…?」
真美子は半歩下がり、身を強張らせ警戒する。
「連中は私のことを師匠と呼ぶ」
「じゃあ、あなたが…」
「座れ。呪をかけられたのだから、安静にしていろ」
「呪…?あ!あの花…。って、そんなことより克己にぃたちが!!!」
「安心せい。奴らは遊びだ。本気ではない。これが効くから飲め」
真美子は師匠に従い、湯呑みを受け取り、ちょこんと座った。濃い緑色の妖しい飲み物を少し見つめ、意を決したように一気に飲んだ。案の定、青汁のようなものすごい味だった。思わず顔をしかめた。
「ごちそうさま」
律儀に言い、湯呑みを置く。気づくと、師匠は真美子を見つめたままだ。
「あの…、何か?」
「 “央の君”よ、名は?」
「村山真美子です。年は十七」
「…そうか。よく似ておる」
師匠の呟きとも思える一言に、真美子は小首を傾げる。
「私の妻にな」
何処か懐かしげな瞳。昔を思い出しているようだ。寂しそうな表情をしているのを見て、さずがの真美子も追及しようとはしなかった。
「さて、終わったようだな」
師匠は微かな空気の流れを感じ、立ち上がる。
「真美子といったな。お前も来い」
「は、はい」
師匠の隣に真美子がいるのを見て、真人は心底安心した。京介から話を聞いていて、心配していたのだ。
「真美子ちゃん、大丈夫?」
「うん!心配かけてゴメンね、克己にぃ。そっちは平気?」
「あぁ」
「…あんな奴らごときで、傷を負うとは…」
ちらりと視線を克己と浩多に移す。二人はあいまいな笑みを浮かべたまま。
「浩多くん、どーしたの?顔色悪いよ」
浩多の青白い顔を見て、真美子は不思議に思う。浩多は言葉を濁した。余計なことを話すつもりはないらしい。
真美子はそれ以上聞いても答えてはもらえないと思い、話題を変えた。
「そういえば英明さん、覚醒めたんですね」
数人が「え?」と、英明を見る。集中した視線を気にもとめず、サラリと言った。
「どうしてわかる?」
「どーしてって…よくわからないけど、英明さんを見てると心の奥が熱くなるの。なんとなくだけど、『覚醒めた』って感じただけ」
「へぇー」
「ふむ。『央の君』の力の一部かもしれんな。卯月の時の力も凄かったが、それ以外にもあるのか」
「覚醒めているのは二人だけか?」
「あ、はい」
師匠の問いに、翔太郎が答える。師匠は深々と溜息をついた。
「先が思いやられるな。明日から、お前たち十六人力に見合った修行をしてやるから、覚悟しておけ。」
それだけ言うと、師匠は十七人に背を向けた。
「ま、待ってくださいっ!!」
慌てて真美子は引き止める。
「何だ」
「私…、私はみんなと一緒に修行しないんですか!?」
「そうだ」
「そ…んな…」
真美子は戸惑いを隠せずにいた。その場にいた一同、その様子に少しばかり疑問に思う。いつもの真美子なら、ここまで戸惑うだろうか?
「…私も強くなりたいんです。みんなに守られてばかりは嫌なんです!みんなのお荷物にはなりたくない。誰にも迷惑はかけたくないっ!!」
吐き出された言葉は、真美子の本音。ここに残ると決めた時から、思っていたこと。
彼女の瞳には、僅かに涙が滲んでいた。
「……誰が『央の君』に教えぬと言った」
「そ、それじゃあ!」
「精神面の方を鍛える。『央の君』の力を操る為にな。勿論、己のみを守る程度に武術も教えるがな」
一気に真美子の表情が明るくなる。そして、深くお辞儀をした。
「ありがとうございます!!」
「さて、今宵はもう遅い。明日に備えて早く寝ろ」
師匠は一人小屋へと戻って行った。行き場を迷う者約一名。
「姫さん、何してるん?早う行かんか」
「で、でも…」
「女の子に野宿させられへんからな」
京介の笑顔に負けて(?)、真美子は大人しく小屋へと戻った。
「女ってタフだな」
真美子の背を見つめ、竜馬はポツリと言った。
「あーでないと困るんだよね。俺たちだって自分たちのこと精一杯なのに、足手まといがいると迷惑だ。それを自覚しないで『守って下さい』なんて言ったら、彼女無事ではいられないよ」
『足手まといがいると迷惑だ』という言葉が、心にグサリと刺さった者数名。自分がそうだという自覚がない者一名。星史はそしらぬ顔で、焚き火を見つめていた。
「真人、いいのか?」
ニヤニヤと笑う彰が真人に近づく。たいていこういう表情の時は、何か企んでいる。それを最近になって気づいた真人は、身を引いた。
「何が?」
「師匠と真美子二人きりだぜ?師匠って言っても男だぞ」
真人の身がギクリと強張る。更に追い討ちをかけるかのように、結太が耳元で囁いた。
「二人で狭い小屋。もしかしたらよからぬ間違いが…」
青白くなる顔。冷や汗が頬を伝う。そんな様子を見て、彰と結太は意地の悪い笑みを浮かべた。
「それはありえない。師匠にも選ぶ権利がある」
大輔は表情一つ変えない。それに同意するのは、星史、英明、洋樹。フォローになっているのかいないのか。大輔の言葉に、真人は不安を一層募らす。
「皆夜の見張りは交代にして、今日はもう寝よう」
みんなの会話を止め、克己は休むよう促す。見張り以外は疲れていたのか、すぐに寝てしまった。…真人以外は。彰と結太の話が気になり、なかなか眠れないでいた。
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真美子です。彼女にも頑張る気はあるんだぞ、ということでしょうか。このあとにリクの「嵐の予感」になります。
大輔の「師匠にも選ぶ権利がある」に爆笑。