似た者同士。認識と手合わせ。






 楽しく向こうでも武器のかち合う音が鳴り出したとき、防戦にまわっていた克己が、相手の刃をはじき返して刀身を抜き払った。
 狙おうにも接近戦にしかならず、克己に当てるおそれで矢を引いたまま放つに放てない彰に克己は叫んだ。
「俺はいいから、彰!星史の方を頼む」
 体格の差を考え体術はしないだろうと思って克己は言ったのだが、事実武器の衝突音はある。わざわざ隙をつくるわけにもいかず、見れないので状況はわからなかったが。
「ドジんなよ!」
 返す声に克己は小さく笑った。
 援護をはずしたことに気をよくしたのか、二メートル程離れている相手は笑った。二メートルといっても、かまえた太刀の間は数センチだ。
「俺は枷圖だ。お前は」
 名を名乗るのが、こいつらの楽しみの一つかと思いつつ、
「克己」
きちんと名乗り返す自分もどうかと思う。思うのだが、何故か自然と二人して笑みが浮かんだ。
「克己先輩!!!」
 誠の叫び声と駆ける音と枷圖の舌打ちが重なり、可聴音域ぎりぎりの高い音が聴こえた。
「うわっ」「な!?」
 獣と他の何か二本足の動物のハーフのような不可思議な生き物が克己の周りや星史の方や他の皆がいるあたりへも一斉に現れる。
「彰!戻れ!!」
「何言って」
「戻れ!!」
 判断に半瞬すら時間をかけず、現れたという認識と共に克己は号を発する。彰の言いかけた言葉は克己の二度目の声に押され、本人も舌打ちと共に皆がいる方へと駆けた。獣人はそれを見送る。
「克己先輩!!」
 思わず足を止めた誠が克己たちの方へ走ろうとした瞬間、ざわりと気配が動く。
「誠。お前も戻れ!」
「そんなっ、克己先輩は!?」
 言い返しつつも、誠の足は止まってしまう。
「俺は大丈夫だ」
 目の前の枷圖は、純粋に楽しそうに笑った。
「行け!」
 振り返りもせずに言われた一言に誠は皆の方へと走り直し、ずるいやと呟く。行けと言う声は向こうでサッカー試合しているときの声なのに、それを背中が言うのはずるい。今の克己には、あの敵しかいないのだ。
 そして獣人はやはり、ただ誠を見送る。
「これは俺ときみの」
「枷圖」
 名前の言い直し要求に克己は笑みを刻む。
「俺と枷圖、きみの邪魔をさせない為のか」
「俺らを囲んでるのはな。でも残りは自由だ。一応四神の御子だとかを殺す為に呼んであるからな」
「さっきあいつらを見送っただけで十分だ。俺も邪魔されるのは好きではないんだ」
 構え直した克己に枷圖は楽しげに笑った。

「ったく。あいつ人の援護勝手に帰しやがって」
 獣人が一斉に出てきて一緒に驚いている目前の敵に半ば呆れつつ、星史は零した。勿論、その行動の正しさをしっかりと認めている。克己が言わずにいたら、まず間違いなく自分が言っている。
「正しい選択だって、あんたもわかってるだろ」
 突然の背後からの声に星史は驚きもせず、当然と返した。
「弓の人間が近距離戦に向かないのは、どうしようもないからね。それより、よくお前が来たな」
「よく言うな、あんた。俺を呼んだろ」
 星史は口の端を上げて、シニカルな笑みを浮かべてみせた。彼は獣人が現れる前に、低い位置で手で来いとやったのだ。それを見た洋樹が来たというわけである。
「あー!!二対一だなんて卑怯たい!一対一で戦ってこそ男ってもんやろ!?」
 呆気からかえった昭平が猛烈な抗議をしたが、
「この状況のどこが一対一になるんだよ。あんたも馬鹿だな。どう考えても俺が大勢の獣人とあんたを相手にするハメになるだろう。それともそれがあんたの言うところの一対一にでもなるわけ?ちゃんと正しい意味わかってんの?」
怒鳴り声でもなんでもないが、勢いよく発せられた星史の言葉に昭平はたじろいだように一歩下がった。獣人はその間にも襲いに来ていて洋樹が一体突き殺す。
 う、う〜とうなった昭平はぐるりと首をめぐらせて、
「枷圖さん。枷圖さん!これなんとかしたってください!邪魔ですたい!!」
「お前が自分のを喚んで、相打ちさせればいいだろ」
星史が昭平のバカでかい声に片耳を塞いだ。僅かに細められた目は怒りだろうか。
「星史。あんたもやれよ」
 更に一体。避けつつ戦うが、洋樹が倒す援護に矢が獣人を射っている。
「後援があるから平気だろ」
 大半は皆の方へ行ってしまっているし、克己たちの方のは動かない。訝しむ目で星史はそちらに目をやっていた。普通ならこんな油断になることはしないし、先程までは普通に切り結んでいたのに。昭平は星史に言われ、また意味もなくわたついている。
「俺はできんとよ」
 ぼそりと赤い顔で言った。
「はぁ!?」
 脈絡のない昭平の言葉に、星史は思いっきり聞き返した。
 言った意味は大体わかっている。わざとだ。同時に横殴りに来た獣人の右の眼球から頭蓋を貫通させて殺す。自分狙いで迫ったのを洋樹に相手にさせる性格でもないし、そもそも自分に売られたモノを倍にして返すのが、星史の流儀だ。
「ばってん、俺は枷圖さんのじゃけぇ、自分のはおらんと言っとろーが!!」
「言ってないだろ」
 ぼそっと洋樹がつっこんだ。
「ぐ。か、枷圖さーん!邪魔なモンなんとかしてください!!」
「黙っとれ!ぼけ!!そげなことぐらいてめぇでどうにかせぇ!!」
 一度目を無視して二度目がきたとき、克己が答えてあげた方がいいという実感のこもった言葉に、了承してみた結果がこれである。
「そげんこつひどいっちゃ」には「次言ってきたら許さん」の一言で終わった。
 昭平が枷圖とかけ合いを始めると、星史もさっさと獣人の処理に移ったので、あっけなく幕は切れたりする。もちろん、後援の矢がかなり数を減らしたのだ。英明の矢は二体分貫通してしまうので、それが倒す速さを上げていた。周囲に気づき目を輝かせた昭平を見て、星史も構える。洋樹はまた現れた時の為に少し後ろに退がったものの、手を出す気はさらさらないと見守る態勢を示す。

 昭平の願いをあっさりと切り捨てた枷圖は克己と再び向き直る。
 二人ともところどころ切り傷をつくっていた。致命傷ではないが、それでもそこそこの傷が克己の左腕にはつけられている。今は直接圧迫で血を止めているが、痛みは断続的にある。
「では、続きといこうか」
 うっすら浮かぶ汗は痛みの為か。
「いいのか」
 そうは言いつつ、二人とも構える。克己には気の進まないものだったが、
「一人、二人を除けば誰も知らないんだが、俺は負けず嫌いなんだ」
「…強くなるな」
「自分で言うのも何だけど、これから修行するからな。勿論強くなるさ」
日頃の謙虚さはどうしたといいたくなる程、不遜な態度。
 構えを解いて枷圖は太刀をひいた。
「今日はこれでしまいにしよう。次までにもっと強くなっていろ」
「いいのか?」
 克己も忘れずに着物の端で拭いてから太刀をしまう。
「あぁ。随分減ったからな、またお前の駄犬が来るだろ。あまりらしまうと、後が迷倒だしな」
 彼らを囲っていたのを除けば、あと四体しかない。誠が飛び出して来るのも時間の問題だろう。
「俺の相手と認めてやる。早く強くなれ」
「肝に銘じておくとするよ」
 克己は薄く笑って答えた。
 克己の背後からドドドという音がする。
 枷圖は周囲の獣人と共に消えた。
「かっつみ先ぱーい!!大丈夫ですか!??」
 ペタペタと触ってきそうな手を丁重に辞退して、
「大丈夫だよ」
と笑う。
「何が“大丈夫”だよ。深いのだけみせろ」
 後からゆっくりと歩いてきた彰が、傷と逆の手を引いて座らせ、自分は傷のある側に座る。
 無言で腕に巻かれた布を外すと、止まっていなかった血が滲む。袖をまくり上げて、竹筒の水を惜しげもなく注いだ。取ってきたらしい消毒の薬草をもみ潰してきれいな布――因みに彰のハンカチだった――において、傷口にあてると巻き出す。
 始終無言の彰に、
「何をそんなに怒ってるんだ?彰」
克己は首を傾げた。彰は巻いた後、ぐっと結んだ。
 痛い。
「誰が、何を、どうして怒るんだ?あぁ、別に俺は怒ってなんかいないさ。素人のお前が囲まれても逃げようとしない上に、わざわざこのバカまで戻してあいつと一対一でこんな怪我したことなんて、勿論怒ってなんかいねぇよ。利き手じゃないし、止血してたもんな。痛いくせに怪我を無視して、更に続けようとしてたのも怒ってねぇよ。あまつさえ、楽しげに会話してたってな」
「彰…。心配をかけてすまない」
 彰は黙ったまま立たせると、背を向けて歩き出す。心なし耳が赤い。克己は小さく微笑んで、その後をついて行った。
「…克己先輩…。俺の存在は…?」
 忘れられた誠が、さすがに淋しそうだった。

 彰と克己のやりとりは大声でもないのに、星史たちの耳まで届く。
「枷圖さん…、何で俺をおいて行ってしまったとですか」
 誠のように背に哀愁を漂わすもうひとり。
 故意にか星史たちは全くもって、その存在を無視する。
「またやってんのか…。あいつら…」
 呆れたように星史は見ているが、洋樹は視線をそこから離すと、
「お前も戻れば?」
さりげなく昭平にそう言った。敵もいなくなったのだし、いい加減面倒になってきていた。
「…。俺は負けたわけじゃなか。次来たときこそ、一対一で勝負するばってん。覚悟ばしとけ!」
 まるっきり悪役な台詞を本人自覚ゼロのもとに言い放ち、消えようとした。
「すみません!待って、…くださっ」
 走りつつ叫ぶ。たいまつの火が慌てていた。
「翔太郎!走るな、転ぶぞ!」
 その声を契機に、
「う、わ。わわわわわ」
火が上下に思いきり動いたが、ふーと安心した息が吐きだされた。
「あ、ありがとうございます。昭平さん?」
 翔太郎の火で二人の姿がはっきりと見え、星史たちもそちらに走った。いつの間に移動したのかはわからないが、兎に角転びそうな翔太郎を昭平が助けたらしい。
「これぐらいのこと、礼にはおよばんたい」
 にこにこにこにこ、と。さっきまでの落ち込み具合を遙か彼方へ吹き飛ばしたらしい。
「あの無躾なことで申し訳ないんですけど、伝言を頼んで欲しいって言われたんです」
 上目使いで――身長差の為当然である――翔太郎は昭平に申し出た。
「よかよ。何たい」
 上機嫌の昭平相手に、翔太郎はほっと息をついて言った。
「浩多さんから俊雅さんへなんですけど、『次あんなことしたら、怒りますよ』だそうです。僕もよくわからないんですけど、そう言えばわかるらしいので」
「ちゃんと伝えとくばってん、心配はいらんよ」
「お願いします」
 深々と翔太郎が頭を下げ、昭平は帰り、複雑な表情をした二人が残る。
 顔を上げた翔太郎に洋樹は何かを言おうとしたが、結局「気をつけろよ」とだけ言って背を向け、脱力した星史がしっかりと翔太郎の肩を掴んで、
「いいか翔太郎。今度から誰彼かまわず、懐いたりするなよ。世の中には、危ないことがたくさんあるんだからな」
と、心配そうに言ったが、よくわかっていない翔太郎は小首を傾げて、頷いた。





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 割とあっさりと終了です。しっかりと再戦の約束はしてますが。枷圖と克己さんは多分仲良くなれます。何しろ、お互いに駄犬を飼ってるから(笑)今回の裏テーマは星史とツーの洋樹です。たぶん意識して書いてた気がするので。星史は翔太郎を手の掛かる弟のように思っていそうですな