合流。そして、魔の手再び。






 到着した彼ら一行を迎えたのは、温かな火とその音だった。
「思っていたより、早かったな。六時間半ぐらいか」
 大輔のその言葉に翔太郎が首を傾げる。
「大輔さん、どうしてわかるんですか」
「今までの経験に基づく推察だが、ほぼ間違いはあるまい」
 さらりとした言い分に結太は小さく、便利な奴、と笑った。
「誠。とりあえず、真美子を内に運んどけ」
 星史が顎をしゃくって、小屋を示す。誠は嫌そうな顔をしたかと思うと、急ににぱっと笑って小屋に向かった。
「おい」
「なんだ」
「覚悟しとけよ、お前」
 低いやりとりが火の爆ぜる音に消されるが、克己の表情は浮かび上がる。
「顔、変わってるよ」
 面白そうに口角を上げた星史と、あらぬ方向を見て無関係を主張しているらしい彰に、
「お前たち。自分は安全だなんて思いはしないよな…?」
 克己は笑う。火の揺れで顔に陰影ができ、何とも暗い笑みに見えた。視界にそんな心臓に悪いモノがるのが嫌で、彰は顔を逸らす。小屋からその真逆の森へ。一方で星史は全く意に介さず笑って、「いいよ」などと答える。
 そういえばこいつも普通じゃねぇんだよなと、彰はふと常識人になった気分になった。
 各々に腰を下ろして火を囲む。これからのことを大輔から聞く必要があるのだから、自分も交ざるべきだと思いつつも、森の奥から彰は目が離せなかった。
 嫌な予感に、彰は視線を克己へと転じた。このテの予感が外れたことが不幸なことに、ない。視線を向けられた克己は真面目な、柔和でない顔をして彰に目で頷く。
 左手を鍔にかけ、かちりと音を鳴らして鎺はばきをはずした。星史の手も槍を持っている。
 大輔は眉をしかめただけで、京介や洋樹は欠伸をかいた。加わる気はないらしい。
 何故か見慣れない衣を上に着ていた浩多は青白い顔で、――それでも笑顔だったが――彼に苦手意識を向けているはずの結太が側にいたりした。
 それを見て、不思議なことがあるものだと、理由を知らない克己や星史は思っていた。
「相変わらず協力というのから縁遠いな」
 せめて、もう少しぐらい何とかならないものかと思って零した克己に星史は肩を竦めてみせた。
 ふいに闇の中に、ぼありと浮かぶように見えた。
「あ。よかったとですね、カズさん。戦ってくれるみたいですよ!!」
「だぁほ!そげなこと戦わな仕方ないようにしたんは、俺らだろうが!!」
 ボカッ。という音と威勢のいい声。能天気な声に、ある人物を連想した克己と彰は、何となくつっこみ慣れたその相手に同情と共感がまざったものを瞬間感じた。
 明かりが届かなくなると不利だと思い、そう離れていない処にいたのだが、面白い登場の仕方をみせた二人の周囲は何故かぼんやりと明るい。
 そういえばと、星史は俊雅たちと戦うはめになった初日の夜を思い出す。
(あの時も見えてたな)
 相手の姿が見えて緊張感を入れ直す。共感や過去を思う時ではないのだ。
 片方、つっこみをした方が太刀を帯びている。もう一人は見えるところに武器はない。
 星史と克己は言葉を交わさぬまま、お互いの相手を理解した。
 先手必勝とばかりに星史は飛び出す。彼は人をまとめて指揮をとるのが上手く、同時に自らが動く時のタイミングをよく知っていた。一見して無謀な賭けのようで、その実確かな勝算があるのだ。
 それに半テンポ遅れるかたちで、克己も走る。彼の相手は大きい方、天然らしい奴だった。だというのに、
「え?えっ、えっ、えっ!?うっわー。待った、待った!!あんたの相手は俺じゃなかよ!」
 彼はそう言って、横に跳ぶ。
 言葉を正確に理解するより先に、全速力にするべく走っていた足に強引すぎる負荷を与えて止めるのとそれをするのは同時だった。
 ガキャィィン――…。
 鞘から半身だけ抜かれた刃が上から下ろされた相手の太刀を受け止める。
 体が勝手に反応したにすぎないそれは僥倖と呼ばれるものだ。
「お前の相手は俺だ」
 組み合った刃をはじき、再び下ろす。鞘から抜ききるだけの間もなく、克己は再び受け止めた。
 この二太刀とももし刀を鞘から抜ききっていたなら、克己はかけられた負荷に耐えられずに傷を負っていただろう。
(冗談じゃ…)
「冗談じゃないっ」
 星史の怒声が克己の思考とかぶる。
 この組み合わせでは最悪ではないか。二人とも己の分を辨えている。克己はわざわざ太刀を帯びて、それで勝負にくる人間を撃退しうるだけの実力がないことなぞよく知っている。星史が武術を習っていたことは東桜神社にいたうちに、こんな時の為に聞いていたのだ。槍と太刀では懐に入られた時には辛いが、彰の弓の援護があったのだからこの太刀帯びと星史を当てる、というのが二人のうちの共通であったし、傍にいた彰もそのつもりだった。
 克己にとって、力のある経験者との死合になる程危険なことはない。
 そして星史にとっても、相手が変わるのはまずかった。タッパが違うのだ。克己となら数センチ低いだろう相手は星史には十五センチ弱高い相手になる。何を使うのか、武器を未だ持たない相手じゃわからなかったが、分が悪いことに変わりはない。体術であってもウェイトの違いで技はかけ難い上に、下手にかけてもはずされる可能性が高い。
 星史は動こうとしない相手を鋭く睨みつけた。

(ほげ~。こん人もかわいか)
 昭平は暢気にそんなことを思った。星史の内心に隠されたものは一切表情には表れず、戦意の溢れる眼が印象的だ。
「あんた康祐と戦ったことあると?」
 ぼけーと見ていた昭平は、ひとつ思いついたことをすぐに尋いた。
 相手は無言で眉をしかめただけだったが、それが肯定だとわかった。康祐は強い相手にしか、興味を示さない。任務はこなすが、楽しそうだったことから見ればそうなのだ。
 枷圖には毎回馬鹿だ何だと言われるが、俊雅曰く天然の昭平には目の前の星史が強いことはわかった。
 それがわかると、どうもうずいてきて仕方がない。昭平も強い相手が好きだった。
 どこからともなく刃が、内に丸まる独特な形の剣を昭平は取り出す。後はもう考えることもなく切りかかるだけだった。





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 本日3度目の戦闘(真美子のもこの日だよね?)。きっと一番忙しかった日だろうな。