一方その間のもう片方は…






 時は陽が中点から僅かに傾いたその時。
 椿と対峙する者たちを遠く離れた地で見る男がひとり。
 声も共に己の元に運び、交わされる会話に見る先から伝わる雰囲気に笑う。
「そげんこつぁで、その男はどうにかできんばい」
 武器を持っていない状態でありながら、人を操るのに長けていることは最小限わかっているだろうに、平気な顔をして会話をしてのける男に対して彼はそんな評価を下す。
「楽しめるか」
 腰にさしてある太刀の鞘を撫ぜた。


 この団体に無言というのは当て嵌まりはしない。決して誰も彼もがよく話すわけではなく、どちらかといえば個人的には口数の少ない者が圧倒的だ。
 だが、しかし無言にはなりえないのだ。
「克己先輩。克己先輩」
 真美子を負んぶした誠が、楽しげに克己に話しかけた。
「何だ、誠」
 歩き始めて、かれこれ二時間半。ずっとこの調子である。
 ご機嫌と顔に書いて満面の笑みを浮かべる誠と、何を思っているのかはわからないが笑顔の克己。
「えへ。何でもないです」
「そうか」
 お前らは馬鹿ップルか!!と怒鳴りたくなるようなノリを展開させている。道中ずっと。
 最初のうちは星史もつっこんだり、彰が怒鳴ったりしていたのだ。ただ、もうそんな気力はなかった。
 他の面々も辟易しきった表情に近い。
 彰は一度振り返り克己を見る。
(そろそろか…)
「克己」
 軽く後ろを振り返り、ちょいちょいと指で呼ぶ。
「?あぁ。じゃあ誠、真美子ちゃんを頼むな」
「え!?えー!?そんなぁ!克己先ぱーい!!」
 さっさと前をゆく彰の方へと向かってしまう。
「バカ代!暗いのに走ろうとすんな。落とすぞ」
 慌てて駆け寄ろうとした誠が、彰のその一言で止まる。彰に言われるのは何やら悔しいが、正しい。いくら誠でも背負った状態で、先頭まで行くのは無理だ。砂利道程度なら問題ないが、この暗い山道でははっきり無理だと誠自身にもわかる。まさか克己の従妹を落としてしまうわけにはいかないのだ。
「ちぇっ」
 大学生だというのに子供っぽく頬を膨らませて、誠は黙々と歩くことにした。
 彰の隣まで来た克巳に彰は意地悪く笑う。
「オツカレサン」
「もっと早くに呼んでくれ」
 溜息をつく。
「ちゃんと初めのうちからやってやっただろ。あれで来ねぇのが悪いんだよ」
「だからって…」
「お前の限界が切れる前にはちゃんと呼んでやったろ?」
 感謝しろよと笑う彰に、彼との会話で調子を取り戻した克己が、
「勿論。いつもお前には感謝しているよ。彰」
にこりと笑う。
「なら、もう少し労われよ」
「これ以上ないというくらい優しくしているが」
「嘘つけ。優しくしてるってんなら、なんであんな…」
「克己」
 先頭で道を煌々と照らしつつ進む星史が不意に足を止めて振り返った。
「松明、健太に渡しな。健太は誠のところに行ってやれ。いくらあいつが動物でも近くに明かりがあった方が安全だろ」
「あぁ、明かりは構わんが…」
 そこで克己が考えるように口をつぐむ。健太を誠の処へ行かせていいものか。健太を見て困ったような笑顔を見せている克己に、健太は口を開きかけた。だが、それより先に彰が黙ったまま克己の手からたいまつを奪い、健太の前に出す。
「いいんだろ」
 無愛想な彰の態度に健太が少し怯む。
「健太、嫌ならそう言ってくれていいんだぞ?無理に頼むつもりはないから」
 横から彰を抑えるようにして、克己が健太と視線を合わせた。
「大丈夫です。俺、誠とこっち来て一番最初に会ったから仲良いんですよ。たいまつ貸してください」
 克己の気使いに、健太は慌てて手と顔を横に振った。笑顔で大丈夫だと主張する。守られる存在にはなりたくなかった。
「そうか。じゃあ、頼む」
 抑えていた手を退かし、彰から健太の手へとたいまつが移る。
 軽く頭を下げて下って行く健太を見ていた克巳は、
「本当に良かっただろうか」
などと、まだ迷っている風で、
「いーんだよ。行くって言ったのはあいつだろ」
「だが、誠の相手だぞ?」
星史が歩き出したのを見留めて、再び歩き出す。
「あいつが相手ならあのバカも真美子あずけてこっち来れねぇし、もし迷っても道案内がつくだろ」
「それも、そうか…」
 納得した克巳の様子に、やれやれと彰が首を振る。黙って耳を傾けていた星史が、呆れたような声を出す。
「克己ってそういったところが駄目だな」
「そうなんだよ。基本的につかえるっつーのに、偶に思いっきり読み違えるんだよ」
「駄目だな」
「だろ」
 話しつつ歩いていく二人に、
「人を肴にして盛り上がるのはやめてくれないか」
克己が言ったところで、「他に何がある」と言われ、沈黙するしかなかった。





              Next
 ところにより天然。な克己さん。克己さんと星史が話してるのって楽しそうだと思います。でも、克己さんをネタに彰と星史が話してるのも楽しそうだと思います。ちょっと中休憩な話。