俊雅は長身を寄り掛からせていた。
「やあ」
笑う。
卯月は思わず足を止めた。この男は苦手だ。自分の上・康祐と何かと共にいることが多いがこの男は底が知れないのだ。
「なんですか。」
一応、団長の一人。不敬にならない程度に問う。
「また、負けちゃったね。」
俊雅のその一言に思わずかっとなる。
「うるさいっ。本気だったらこんなんじゃないんだから!私は負けてなんかない!高秀のところを伺ったらすぐに倒しに行くわ!」
「あはははは。うん。間違ってはないんだけどさ。
ちょっと遅かったよね。」
俊雅は笑う。笑って言い放つ。言いながら力を放つ。
「どういうこと?」
そんな短な一言を口に出す間すらなく、
「だから遅かったんだよね〜。それに、五月蠅いよ?」
笑う。
ざらりと音をたてて灰か砂か、兎に角細かな粒のようなものが崩れ落ちた。その中央には人形の木札。
「いいのか?他人の所有物を勝手に処分して。」
ふいに俊雅の後ろから声がかかる。
「そんな。将大さん。心にもないこと言わないでくださいよ。」
俊雅は苦笑して振り返る。だが表情は先程浮かべた笑顔のまま。
「将大さんだって役立たず、いらないって思ってるでしょ?」
「まあ、な。確かにいらないな。」
「コースケくん。もしかして怒ってたりします?」
不安そうに問うのは将大より奥の影に対して。
「いや。下手に矜持の高いのも五月蠅いのも邪魔だから。」
「そうですか。良かった。コースケくんが怒っちゃったらどうしようかと思いました。」
俊雅は、ほっと胸をなでおろす。
「どうするつもりだったんだ?」
将大は面白そうに笑った。俊雅は真面目な顔をして、
「それはもちろん、僕にできる全てのものでコースケくんに赦しを請いますよ。コースケくんが『赦す』と一言くれるまで、ただひたすら。それだけです。」
堂々と言ってのける。
「巫山戯るな。」
「まさか。僕がコースケくんにそんなことを言うわけないでしょう。僕はコースケくんにはいつだって本当のことしか言いません。」
真摯な眼差しでもって言い募る。
「戯言を。」
「信じてください。僕はコースケくんにはいつでも本当のことしか言いません。いえ、本当のことしか言えません。
僕はコースケくんに嘘も偽りも、巫山戯ることもできないんですよ。」
「それぐらいで後は二人きりの時にでもしろ。」
静かで落ち着いた声音が入った。
「宇多さん。どうしたんですか。」
俊雅は笑顔で振り返る。
宇多は答えず足元の木札を持ち上げると康祐に放る。卯月を形成していたものだ。康祐は受け取ったその手でそのままボキンと折って手を放した。
「良いんですか?コースケくん。」
「こんな元ならいらないだろう。また作ればいい。それよりお前も怨鬼ばかり降ろさないで手駒になるのを呼べ。」
「あははは。そーですね。」
(いても邪魔なんだよね。下手に自意識があるのって。)
「お前達!」
宇多の大きな声に話すのを止め、視線を向ける。話をしていたのは康祐と俊雅の二人だったが、将大はそれは楽しそうに二人の様子を見ていた。
「こんな所で油を売っているのなら早く始末に行け。」
切れ長の鋭い目が射る。
「それは“あの方”の御命ですか?」
「いや。だが変わらないだろう。“あの方”の御望みを阻む存在を快く思われはすまい。」
俊雅は実に楽しそうに笑った。それはお気に入りの玩具を見つけた子供に似ている。
「だったら別にまだ殺してしまわなくてもイイんですよね。」
「俊雅」
康祐はたしなめるように名を呼ぶ。将大は意外そうに俊雅を見た。
「お前、その娘が気に入りでもしたのか?」
「まさか!確かに気に入ったコならいますけど…“央”なんてどうでもいいですよ。ちょっと話してみたいコがいるんですよねぇ。」
くすくすと笑った。彼との話は楽しそうだ。
「だから、殺しはしませんけど、今から行こうかな。」
「央を始末してからにしろ。」
宇多はそう言ったが、
「駄目ですよ。だって“央”が死んだ後も彼らがいるなんて保証はないじゃないですか。それにコースケくんだってあのかわいいコと戦ってみたいでしょう?」
相手を見るだけが目的だった為、康祐は星史と手合わせする前に引き上げている。
康祐はふと笑う。確かに戦ってみたいことは否定しない。確実な命がないうちならそれもいいかもしれない。
「ね、宇多さん。かまわないですよね。」
何を言ったところで無駄らしいと思った宇多は溜息をついた。
「仕方がない。わかっているとは思うが“あの方”の御命があり次第止めてもらう。それから人間をあまりないがしろにするなよ。」
ありがとうございます、と言って遁行するところだった。
「待て」
将大の声が少し変わった。悪戯でもしそうな声に、ほんの少し本気を混ぜる。
「交替だろう。」
シニカルに笑う。そして消えた。
「仕様がないですねぇ。」
康祐と目が合い、小さく笑い合う。
「将大さんにも楽しいコが見つかると良いなあ。」
(僕のコには手を出さないでくださいよ?)
口の中で呟いた。
Next
これは前のと一緒にしようかとも思ったんですが、これだけ単独にしました。おかげで敵オンリー。
俊雅については、まあ、彼だから、とだけ。
将大は彼だけそのまま名前を使わせてもらいました。普段、周防さんだからいいかなと。それで彼に関しては、絶対にバラン。これは譲れません。私と悠姫嬢の中では決定事項。変更なし。