丁度中腹ぐらいだろうか。
「けっこう大変だな、この山。」
星史は特に息を乱さず上を見上げた。高さは別にそれほど高くはないのだが、道が整備されていないだけではなく、岩やら丸太やらがゴロゴロしていて上りづらいのだ。
「はあ、そうですね。」
溜息をつきつつ同意する。体力がない、というわけではないが、慣れていない運動に余計な体力まで消耗してしまうのだ。
「これは案外良平の意見に近いかもしれん。邪魔されず云々はわからんが厭人の気があるのやもしれないな。これらの岩は別と考えても丸太程度なら、人が寄ってこないようにしているという可能性がある。その場合、俺たちのような者に果たして力を貸そうとするだろうか…。いや、結論はまだ早いな。兎に角一度話してみんことには如何とも言えん。」
大輔は歩きながら一人遠い世界に行ってしまった。大輔と掛けあっていたはずの良平は後ろの方に下がっている。
「おーい。健太?お前大丈夫か?」
「ああ」
健太の顔色が悪い。だが体調が悪いわけではない。神社を出た時同様良好だ。これはひとえに精神的なものである。浩多は笑っていた。
さて、では結太はどうしたのか。
それは殿をつとめている英明・真人の方に合流したからである。非常に居心地が悪そうだった為真人が声をかけたのだ。
「結太、大丈夫か?」
真人は始め心配そうにそう尋ねた。結太は人見知りがないからすぐこの二人と仲良くなってしまった。
「へーき、へーき。あいつにも大分慣れたと思うし…たぶん。」
明るく言ったものの少し目が泳ぐ。わざとである。
「え!?たぶんって…」
本気にとった真人に、
「真人。からかわれてる。」
英明は静かに言った。
もう一度、え!?と言って結太の方を真人が振り向くと、
「わり。マジ大丈夫。だってさ今度からお前たちと一緒にいればいいんだし。英明だったらあいつといい勝負できるだろ?」
にか、と笑う。
(犬だ)
英明はふと思う。随分と明るく笑えるんだな、と。
「どうかした?」
動いていなかった星史たちに英明は問いかけた。
「休憩しましょう?」
どうやら既に決定していることらしいことを翔太郎は伝えた。ここは丁度なだらかでちょっと道から離れたところには石の天然の椅子があった。まさしく休憩所といった感じだ。
「翔太郎、疲れたのか?」
結太はひょいと覗き込むようにした。他の奴らは座っていて、翔太郎が三人を待っていたわけだ。
「いえ、や、あの、ちょっと。そ、それに大輔さんがそろそろ水分を摂ったほうがいいって言って。どうせだったら少し話そうかってことになって。そ…」
どうやら少しパニックに陥っている。結太はつい、いい子いい子と頭を撫ぜた。
「あ、あの?」
「いーじゃん。いーじゃん。行こーぜ、英明、真人。」
結太はご機嫌だった。
浩多によって磨り減らされたものが翔太郎の純粋さというか素直さ、改め子供らしさに、一つしか違わないが癒された気分だったのだ。それはもちろん、側に英明と真人という仲間、友達がいるからだが。
「何話してんだか。」
星史は呆れている。視線の先にいるのは翔太郎で、赤くなって俯き加減で何か言っていたかと思えば今度は頭を撫ぜられている。
「いいじゃないですか。楽しそうで。途中まで結太くんの顔色もあんまり良くなかったのが治ってるし。」
ねぇ、健太くんと振られて、健太は大急ぎで肯定した。まさか、あんたの所為だ、あんたの!と思っていたことを知られてはいけない。絶対にいけない。
浩多は本心の見えない笑顔でふふと笑った。健太に山を登ったのと関係ない汗が流れた。
「すみません」
ぺこりと頭を下げて翔太郎たちが来たので、まるで精神攻撃のようなそれは終わった。各々四人も適当に座り水筒をあける。
「こういうの見ると、なんだか、まだ不思議な気分になっちゃいます、僕。」
翔太郎は水筒、竹筒を見つめる。
この時代に当然現代の水筒があるわけがなく、竹を利用したものを使う。
「不思議ってどんな?」
「なんか胸のあたりがあったかくなるんです。嬉しい、に近い感じかな。」
「どうして?」
浩多の静かな声に首を傾げた。
「でもさ、コレってなんか不便じゃねぇ?今はいいけど、冬なんかはさ。あったかいもん入れられねぇし。」
「ま、うん。そうだけど…」
翔太郎は必死に考えを巡らせる。
「落ち着けっての。お前、慌てやすいんだから。」
星史がペシリと頭をはたいた。
「はい。そう、ですね。なんか、自然と一つだなって。」
皆、わからないという表情をする。
「野中。もう少しわかる言葉と説明が欲しい。何故竹筒を使っていると“自然とひとつ”なんだ?」
大輔が寄る。
「いえ、竹筒で限定するわけじゃなくて、ただ、今は使ってないでしょう?自然の恵みをこの時代の人は使っていて、でも僕たちは何から何まで作るじゃないですか。ここにはこんなに緑があってそれで共存してる。こんな風にだって生きられるんだなって思うとなんだか嬉しいです。
便利なのもいいけどこういったのもいいなって思えて。まだ少ししかここにいないからそう思えるかもしれないけど、でも僕は。僕は生活の中に自然を感じられていいなって思えて」
じっと見つめられて翔太郎ははっとしたように赤くなって、
「いきなりすみません。変なこと言って。」
「そう?いいんじゃないのかな?全然おかしなことじゃないと思うよ。」
そう言って珍しく邪のない顔で浩多は笑う。
「うむ。そういった考えはこの先は特に必要になるのではないか?俺たちの時代は自然が汚染・侵略されているからな。」
大輔も頷いた。翔太郎はほっとしたように笑う。
「なあ」
水を飲んでいた良平が、
「ここの奴ってどのくらい強いんだ?」
道中大輔に尋ねたことを再び口にして、大輔は良平の側に行き、何やらまた言い出した。きっと同じようなことを言っているのだろう。
「強いって言えば星史さんって強いですよね。」
「そう?」
関心がなさそうに星史は返す。
「ええ。この間の時も星史さんだけ槍を繰っていたじゃないですか。」
浩多は星史が傍に立てている槍に視線を向けた。
「え!?そうなんですか!?」
社内にいて知らない翔太郎が眼を綺羅綺羅させた。結太と真人も驚いて同じく外にいた英明を見る。英明は黙って頷いた。
「そういえば星史さんって卯月が来た時も格好良かったですよね。きれいに決まってて。」
翔太郎が思いだして言った。
「ああ、あれか。あれは護身術に柔道とか合気道とかいろいろやってるから。」
「槍は?やっぱり槍術かなにか?」
星史は溜息をついた。
「そんなに知りたいわけ?」
「はい!」
翔太郎は元気に返事をし、浩多はにこやかに笑み、残りも興味津々といった態だ。
「俺は槍術なんて知らないよ。大体どこにあんのさ、現代に。俺がやってみせたのは杖術っていうんだよ。」
「じょうじゅつ…?」
「そう。杖。要するに杖だな。ビリヤードのキューみたいなやつ。老人がついてんの想像すんなよ。だから本当は槍用じゃないんだ。間合いが違う。卯月相手のときも康祐相手のときも、こっちは戦い合う前に消えやがったけど、杖と同じくらいの長さで使ったんだ。槍の作法なんて知らないから素人だよ。槍はね。」
「そういうものなんですか?」
翔太郎の問いに素っ気なく、そう、とだけ星史は返した。
「あ、でも杖術なら上手なんですよね?星史さんて」
「それならね。」
確かに通っていた処や大会でも強かったが。
「なら、やっぱりすごいです!」
「―――やっぱ翔太郎ってイイコだな。」
星史はしみじみと言った。
「上手って言えば羽山さんも弓矢、上手ですよね。」
浩多は今度は英明に向き直る。
「そう?杉本も十分に上手だと思うけど?」
「いえ、僕は…」
浩多は笑う。英明も心なしかうっすらと笑んでいるような…。はっきり云って寒い状況である。事実、健太は胃の辺りを押さえて俯いている。大輔から解放されている良平は寝ている。それを健太はうらやましそうに見て、軽く蹴った。彼もこれぐらい許されなければやっていられないのであろう。翔太郎は、はらはらとしているようだが星史と大輔は傍観を決め込んでいる。
「で?本当はどうなんだ?」
沈黙、寧ろ無言の睨み合いが嫌になった結太に促され、
「別に。高校は弓道部で大学もサークルに入ってるけど。」
と答えた。
「あんただってこないだの練習の時も小早川と水谷の間を上手く当ててたけど?」
浩多はただ笑う。
「僕はああいう時だけだから。」
(嘘くせぇ!)
真人と結太+実はひっそりと健太も思った。
「杉本。日本人の謙虚さは美徳だとも謂うが、あまり不毛なのはやめるべきだ。どうもまだ僅かな統計だがお前のそれが出ている時はやりずらそうな者が多発しているように見受けられる。」
(やめろ!)
「そっか。ありがとう大輔さん。気をつけるね。」
「うむ。」
満足したらしい大輔とは裏腹に、
(んなもん嘘じゃねぇか!)
心の絶叫があったのは言うまでもない。
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ペジ・タイ、すみません。碌なのが浮かばない。
和みキャラ、じゃ無くて癒しキャラ翔太郎。ついでに結構あわてん坊。
今回はほのぼの。