(だから女は…)
竜馬は再び内心で毒づく。視線の先では真美子が雪乃と食事の支度のために薪を抱えている。
(意見も態度もコロコロ変えるし…)
開き直ったように明るい。今も何かおかしなことがあったのか二人して笑っている。さっきまで泣いていた烏が―と思うのも無理はない。
(男に守られてなきゃ何もできない―)
ここまで考えて竜馬は先程の「卯月事件(仮)」を思い出し、考えを少し改めることにした。
(…でも苦手だ。)
「よそ見して射てるのかよ。」
隣からかけられた声にギクリとする。振り向くと彰が小馬鹿にした風の笑みを浮かべ弓を引いていた。
「ちょっとは考えを変えたか?」
「なっ…」
図星だというのはプライドが赦さない。竜馬は矢をつがえると彰が狙っているらしい小鳥の居る小枝目がけてそれを放つ。矢は彰の放った矢と小鳥の傍でぶつかり、落ちた。小鳥が飛び立つ。
「下手クソ。」
「年長者への口の利き方を教えてやろうか。」
彰の手が竜馬の襟元を捕らえそうになったその時、二人の間を矢が走った。
『!?』
放った者の方を見るとそこには身の凍る笑顔があった。
「仲間割れは御法度ですよ。」
竜馬は背中に冷たい汗が伝うのを感じた。
「弓組って協調性ないですよね。」
残りの一人、英明はというと、三人から少し離れたところで黙々と弓を引いていた。正面の木に付けた目印に向けて矢を放つ。ひらひらと舞い落ちる枯れ葉が一枚、矢の先に止まり印の上へ縫いとめられた。
その光景を見て、浩多は笑んだまま手を打ち、彰はフンと鼻先で笑う。そして竜馬は、
「あれくらい。」
と自分も練習を再開する。浩多はやれやれと首を巡らした。
「他組はあんなに楽しそうなのに。」
武器に別れて修行―というにはあまりに簡単だが―を始めたものの、組によって差がついてきている。
「森川、勝負だっ!」
「え?」
言葉とともに躍りかかってきた誠の剣を真人は危ういところでかわす。
「じゃあ僕たちもやりましょう。遼さん。」
「ああ」
二組の戦いには明らかな差があった。翔太郎と遼の間では、素直さや遠慮が災いしてか通り一遍の打ち合いにしかならない。一方誠と真人の方は、誠が勢いでかかってくる分、真人も本気にならざるをえない。激しい音が辺りに響き、それが何回か続いた後、真人の剣が主の手からはじかれる。
「あっ」
「俺の勝ちぃ!次は天馬!」
誠は喜々として遼へ向かっていった。
呼吸を整えながら真人は剣を拾いに行く。派手に跳んだ剣は英明の近くに転がっていた。
「傷、大丈夫?」
応急処置で巻き付けた布を汚した血は既に固まっている。
「たいした傷じゃない。」
「そっか…」
雄弁な沈黙が二人の間を流れる。
「真人さ〜ん。相手してくださ〜い。」
翔太郎が大きく手を振り叫ぶ。
「今行く!―じゃ」
英明は頷き、自分の的へ体を向ける。
「う〜ん」
太刀組と槍組は悩んでいた。
「大体いきなり槍で戦えって言われてもなあ。」
洋樹が呟くと数人の溜息が応える。
「太刀にしても…俺たちの時代にはない戦いだからな。使い方もよくわからない。」
「チャンバラの要領でええんとちゃうか?」
京介がいかにも年長者らしい意見を出すが、大輔が首を横に振る。
「それはあまりに安易だろう。相手はおそらくこのような武器に関してかなりの腕を持っていることが推測される。そういった相手と戦う場合、受け方や作法のようなものを知識として持っていなければ、とても太刀打ちできるものではない。」
「やっぱその道の師匠みたいな人に教わるのが一番だよね。―雪乃さん。」
折良く通りかかった雪乃を星史が呼び止める。
「何でしょう。」
「近くに武器の正しい使い方を教えてくれるような奴、知らない?」
雪乃は少し考え、急に思い出したように眼を瞬かせた。
「御座います。ここから南へ四里ほどのところに黒毘山という山が。その近くに住む者が武術を修める、まさに師と呼ぶにふさわしい方です。」
「じゃ、行ってくるよ。」
「申し訳御座いません。本来なら私がついていくべきなのでしょうけれど。」
雪乃から武術の師匠の存在を聞き、御子たちはきちんとした修行をつけてもらうべきだ、ということで一致した。しかし全員で行くとなると必然的に真美子も連れて行かねばならず、大所帯になってしまうので立候補した九人が行くことになった。九人とは槍の星史・結太・良平、太刀の健太と大輔、剣の真人・翔太郎、弓の英明。浩多である。
「適当に頑張ってくるよ。」
「星史さん!ちゃんと頑張りましょうよ!」
「翔太郎…お前はほんっとイイ子だな。」
二人は他愛もない会話をしつつ、残りはそれについていく。
「また結太くんと健太くんと一緒だ。よろしくね。」
浩多の笑顔に結太と健太は冷や汗を流す。絶対にこいつを敵に回してはいけないとこの数日間で身にしみてわかった。
「なあ、これから会いに行く奴ってどんくらい強いのかな。」
「俺たちより強いことは確かだ。何せ師匠と呼ばれる立場の人間だからな。しかし四つもの武器を使いこなせるのか?それから何故山の頂上など不便な場所に住んでいるのだろう。」
「そりゃあれだろ、人に邪魔されずに修行したいってヤツ。」
「む…そうか。その説はあるな。」
妙に会話が弾んでいるのは大輔と良平。
「…傷、ほんとに大丈夫なのか?」
「たいした傷じゃないって言ったでしょ。」
「…う、」
「でもま、心配してくれる気持ちはありがたく受け取っておくよ。」
珍しく、というか初めてかもしれない笑みを見せて英明は言った。真人は一瞬呆気に取られたがすぐに満面の笑みになる。
「なあ、お前のこと英明って呼んでいいか?一個上だけど。」
「別にいいよ。俺も真人でいい?」
「うんっ!」
残った者は残った者でそれなりに仲良くやっていた。
星史たちを見送ったあと、それぞれは思い思いに過ごしていた。
誠は遼を誘って相変わらず元気良く剣を振るっていたし、克己と彰は何やら話していた。京介と洋樹はどこかへふらふら行っていたようだが、昼ご飯の時間までは戻っていた。
昼食後。
午前中ずっと一人で矢を放っていた竜馬が午後のことを思案していると真美子に声をかけられた。
「えっと水谷くん、暇、かなあ?」
声をかけられたのは初めてだったので心なしか緊張する。
「なんで?」
「あのね、夕ご飯の材料を採りに行きたいんだけど…一緒に来てくれる?」
予想しなかった言葉に面食らう。
「…なんで俺?」
「京介さんと川瀬さんはお昼寝するって言うの。九代さんと天馬さんは練習に行っちゃったし。」
「小早川とか北沢に連れてってもらえばいいだろう。」
我ながら、なんて意地の悪い言葉なんだろうとふと思う竜馬。
「んー、彰さんはちょおっと事情があって二人っきりにはなりたくないんだ。それにね、私、克己にぃ離れしようと思ってるの。」
「北沢のことだよな?」
「うん。私ね、もっとしっかりするにはどうしたらいいかどうしたらいいか考えたの。で、とりあえず少し自立しようって思ったのね。だから克己にぃに頼りっぱなしはやめることにしたんだ。」
エヘヘと照れくさそうに笑う真美子を見て竜馬は溜息をつく。
(やっぱ女ってすげぇタフだ。)
きっと勝てない、そう心の中で呟いた。
「あ、で、でもイヤだったらいいの!今すぐじゃなくてもいいから。」
「いいぜ、行っても。」
ぶっきらぼうに答える。
「あ、ありがとう!」
そういうことで竜馬と真美子は裏山へ山菜を採りに行くことになった。
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それぞれが発展を望んで、ということなのかな。
修行は重要な工程です。