弱さと決別。捕虜逃走。






「森川、どうだった?」
 部屋には結太と英明だけ残っていた。
「後は本人次第。みんなは外?」
「うん。さっきまで話してた内容を教えようと思ってさ。」
 真人の暗い表情に対し、結太は明るい。
(…どうするんだろう?)
 真人は真美子が帰ってしまいそうな気がしていた。彼自身、最後は言い過ぎたと後悔しているのだ。真人にしてみれば真美子には帰って欲しくないのだ。かと言って、このまま危険にさらすのもどうかと思っていた。複雑な心境なのだ。

「健太、違う!もっとひねるんだ。」
「え?」
 健太は握っている細い腕を必死に言われたようにするが、どうも上手くいかない。見るに見かねた克己が丁寧に教える。
「いっ…痛いっ!」
 甲高い悲鳴が響く。声の主はもちろん卯月だ。
「さてと。何から聞こうか?」
「もちろん」
「何が目的なんだ?」
 星史の強い口調。卯月はにやりと笑い、吐き捨てるように言った。
「そんなこともわからないの?あんた達本当にバカ?」
「健太くん、もっと絞めて欲しいって。」
 笑顔のくせに相変わらず浩多は言うことがきつい。健太は慣れない手つきで腕を締め上げる。すると卯月の表情が苦痛に歪んだ。
「俺たちの勾玉を狙うほかにも何かあるんやろ?」
「知らないわよ!私は、ただ女を捕らえろと言われてるだけよ!」
「質問を変えよう。お前たちの目的は?」
 強い口調で卯月に詰め寄る大輔。
「知らないわよ。否、知っていても教えるはずないでしょ?」
「いい加減にしないと怒るよ?」
 ゴキゴキと指を鳴らす星史を克己がなだめる。
「なあ、次オレがやりたい!」
「却下。お前じゃ逃がすだろ。翔太郎、健太と替わってやれ。」
「は、はい。」

 がらりと遠慮がちに部屋の戸が開けられる。赤く腫れてしまった瞼が痛々しい。
「決まったのか?」
 真人の問いにただコクンと頷くだけの真美子。
 決心が決まったのか、瞳からは迷いの色が完全に消え去っていた。
 真美子は外へ出る為の戸を開け、外の様子を見守る。つられるように英明、真人、結太も。
「あんた自分の置かれてる状況わかってる?この中であんた一人っていうのは誰が見ても不利だろ。聞かれた質問には正直に答えた方が身の為だと思うけど?まあ、あんたみたいな三下が重要なことを知ってるとは思ってないけどね。」
 星史が人を馬鹿にしきった笑みを浮かべる。だが、その挑発に乗らない卯月。それどころか星史に対抗するかのように不敵な笑みを見せた。
「あんた達こそ大人しく勾玉を渡した方が身の為よ。あんた達みたいな弱い奴らがこの世の混沌を鎮圧することなんてできるわけないじゃない。」
 星史が耐えかねて手を上げるが克己が止める。にもかかわらず乾いた音が響き渡った。全員の視線が音の発信源である人物に集まる。
「真美子…様?」
 雪乃の呟き。人物が真美子だとわかると一同皆呆然となる。ただ一人、克己を除いて。
「止めてみせるわよ!この世の混沌でも何でも。殺せるものならやってみせなさいよ!私は逃げも隠れもしない!」
 左の頬を叩かれ、卯月はそのまま叩かれた状態なので真美子の表情は彼女には見えていない。それでも真美子の気迫がひしひしと伝わっていた。
 卯月は舌打ちすると空いている左手で翔太郎のみぞおちに肘鉄を入れた。
「…っ!?」
 苦痛のために掴んでいた手の力が弛み、卯月は一瞬にして飛び上がった。見事なアクロバットの最中、卯月は右手に気を集中させ、青い弾を真美子めがけて投げた。投げられた弾は空気抵抗を受けず、スピードに乗って標的へと。
「危ない!」
 真人が真美子へ駆け寄ろうとするのを英明が止める。
「何すんだ!」
「よく見てみろ。」
「…?」
 星史も克己も動こうとはしない。浩多なんて笑みを浮かべたまま。真人は英明に言われた通り、真美子を見る。
 うっすらと彼女の身体が光っていた。まるでヴェールに包まれているように…。目をこらさないと見えないが。
 真美子は体の中から湧き上がる力に身をゆだね、瞳を固く閉じた。
 バチ!青い弾が、真美子と衝突する寸前に光と激突し、跡形もなく消えてしまった。
「なっ!?」
 神社の屋根に着地した卯月は絶句する。こんなことは予想外だった。
 真美子の前に星史と克己が庇うように立つ。
「諦めろ。」
「俺達は勾玉を渡すつもりはない。」
「な、何よ、何よぉ!次こそは!」
 卯月は逃げるように消え去った。慌てて後を追おうとする良平を大輔が止める。
「放っておけ。どうせまた来るだろう。」
 良平はしぶしぶ止まり、それを見ながら浩多が口を開いた。
「そうだね。それにこれ以上聞いても無駄だったろうしね。ああ、翔太郎くん、大丈夫?」
「…はい、すみません。」
「にしても姫さん、覚醒めたんやな。」
 ポンポンと真美子の頭に手を乗せる京介。真美子ははにかみながら頷き、京介が手をどかすと深々と頭を下げた。
「私、みんなに迷惑かけるかもしれないけど…。けど、私に出来ることはしようって思うの。この世界を救うのが使命ならそれをする。私もここに残るって決めたから、だから、よろしくお願いします!」
 決心したと言うだけあって真美子の顔は晴々としていた。
「真美子様…有難う御座います。」
 雪乃がひっそりと呟いた。


「無様だな。」
 シンと静まりかえっている林の中、康祐の声が良く通った。
「うるさいわね!手加減しすぎただけよ!」
 卯月は左の頬を手で押さえたまま。叩かれた時はさほど痛みはなかったが時間が経つにつれ痛みが増していった。外見は火傷のようにも見える。
「私が本気出せば奴らなんて簡単に殺せた。だけど…っ」
「覚醒させたのはお前の責任だ。最初から本気でやれば良かったんだ。」
「責任はちゃんと取るわよ!この手であの女を殺してやる。苦しめて苦しめて…。地獄を見せてやるんだから。」
 憎しみが滲み出ている表情。康祐は見慣れているためか表情を変えない。
「その前に高秀に見てもらえ。早く治さないと、浄化されるぞ。」
「わかってるわよ。こんな傷だけで浄化されるなんてまっぴらゴメンだわ。」
 卯月は闇にとけ込むように消えていった。
 康祐とて、あんなことぐらいで浄化されるとは思っていない。だが、央の君の力は計り知れない。油断できないのだ。
「まったく卯月の奴…」
 康祐自身、卯月の本当の力がどれくらいなのかよく知らない。どこまで本当なのか…。

(あの女は私が殺す。)
 卯月は何度もその言葉を繰り返していた。心の奥底で憎しみが煮えたぎっていた。真美子を殺すことを卯月は使命と感じている。そして唯一自分が存在する理由。その想いだけで卯月は生きているのだ。
(絶対に―)





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 てなわけで残ります。ん?前回でわかってますか。
 真美子の覚醒めはまだ完全じゃない感じ。
 卯月にはノー・コメント。高秀って誰だ?と思った人は設定を。