まだ知らぬ波乱の差し迫る朝食






(嵐の後の妙な静けさのようだ…)
 雪乃は昨夜のことを思い出しながら、真美子の部屋へ向かった。昨夜の出来事にひどくおびえていた彼女を雪乃は心配していた。雪乃自身もそうだったが、真美子の場合、異世界に来てわけもわからないまま巻き込まれてしまったからだ。
「真美子様、朝餉が整いました。」
 壁にもたれて外を眺めている真美子はゆっくりと雪乃に焦点を合わせ、気のない返事をした。
「ごめんなさい。…食欲がないの。」
「そう…ですか。わかりました。」
 雪乃はそれ以上何も言えなかった。その為、部屋から早足で遠ざかる。
(本当は彼女がしっかりしなければなれないのだが…)

「雪乃ちゃん、どうやった、真美子の様子?」
 雪乃が皆の所に戻ると既に一三人は食事に手をつけていた。手をつけていない結太、健太、翔太郎は何処か表情に陰を落としていた。その様子に気付く者もいれば気付かない者もいたが、とにかくその三人に声をかける者は誰一人いない。
「食事はいいそうです。昨夜のことが相当堪えたらしく…。」
「まあ仕方ないな。真美子は慣れてなさそうだし。」
「慣れている方がおかしいだろう?」
 星史に対し、言葉を返す克己は立ち上がった。
「様子を見に行ってくるから後はよろしく頼む。」
「ああ」
 克己の意味深な言葉を理解したのか星史は軽く頷いた。

「真美子ちゃん、入るよ。」
 克己が部屋に入ると、真美子は雪乃が来た時と同じ様子だった。克己は真美子の隣に座った。うつろな瞳には何も映っていない。
「…克己にぃは怖くないの?」
 少し戸惑って出た言葉。
「怖いと言えば怖いけど、そう思っていても状況は良くならないからね。」
「みんなが頑張って戦ってるのに、私はただ見てることしかできなくて…。怖くて…っ」
 膝を抱え顔を埋める真美子の頭を克己は優しく撫でる。
 わけのわからない世界に来て、死と隣り合わせの今の状況。不安だ、怖いと思うのは普通。だが真美子は性格上、人一倍その思いが強い。それが昨夜の出来事で爆発したらしい。
「大丈夫。みんな同じだと思うよ?ただ一人一人、この世界を守るため、もとの世界に戻るために自分でできる限りのことをしているんだ。悩む前に行動した方が得だろ?」
 柔らかい笑顔。真美子はうっすら涙を瞳に浮かべ、克己の腕にすがりつく。
「私、自分の身ぐらい守れるようになりたい。これ以上、他の人に迷惑かけたくないの!」
「できるよ。自分が望めば、ね。」
「あの…」
 ものすごーく入りずらそうに真人が顔を出した。立ち聞きでもしていたのだろうか?気まずそうな表情だ。
「真人くん?」
「これ、一応持ってきたんだけど…」
 視線が持ってきた朝食の台へと映る。克己は立ち上がりそれを受け取った。
「少しでも食べた方がいい。これから先、どうなるかわからないからな。」
「ん、そうだね。ありがとう真人くん。」
 少しばかり真人の頬がピンク色に染まる。微妙な変化に気付いたのか克己は朝食を真美子に渡し、立ち去ろうとする。さりげなく真人に、
「傍にいてあげて…」
と耳打ちをして。
「なっ!?」
 不意をつかれ慌ててしまう。
「真人くん、座らないの?」
「えっ!?あ…。…いい?」
「どうぞ。」
 真美子は元気を取り戻したようで、朝食を食べ始める。それを見て安心する真人。
「俺もさ、怖かったよ。けど怖いと思って立ち止まっても何も始まらない。」
「…そうだよね。…ん、もう大丈夫。私も頑張るから。」
 満面の笑顔の真美子。真人はさっきよりも増して赤くなる。
「どうしたの?」
「な、なんでもないっ!」

 克己が真美子の相談(?)を受けているとき食事をしていた面々は…。
「翔太郎が食わねぇんなら俺がもらう。」
「んじゃあ俺は結太と健太の分♪」
 良平と誠が食事に手を伸ばした瞬間、彰が二人の手をはたいた。
「いてぇ!何すんだよ!」
「おかわりしてもまだ足りないのかよ!?」
 ギャアギャア騒ぐ奴らをよそに浩多が優しい笑みをうかべ三人を見つめた。
「食べないと体がもたないよ?」
 それでも手をつけようとはしない。一三人の視線が三人へと集中する。重々しい空気を断ち切るかのような星史の溜息。克己に頼まれた以上、行動しなければと自分に言いきかせる。
「何が不満なんだ?」
 翔太郎は彰に何か助けを求めるような瞳をするが、彰は関係ないという感じで完全にくつろいでいる。
「…これ以上足手まといになりたくないんです。」
 思い切って口にした言葉。三人とも同じ想い。昨夜のことで実力の差を見せつけられて改めて実感したのだ。
「なんや、強くなりたいんか?」
「「「はいっ!」」」
「まあ確かにこの世界で自分の身を守ることは必要だ。それならば腕の立つ人物に教えてもらうんだな。」
 大輔が星史の方を向き、そう言うと、
「そうだな。ちょうどいい練習相手もいるし。」
と星史は立ち上がった。
 みんなが外へ出ていく中、真人は一人食事を持っていき、雪乃はそんな様子を黙って見つめていた。
(本当のことを言わなければならない…)
 全てを話す必要があると感じるのだが心の奥でそれを拒否していた。
(覚醒めてしまったら、後戻りは出来ない…けれど…)
 何度も何度も同じ事を考えてはまだ答えを出せずにいた。静かになった部屋の中。雪乃はただ一点を見つめていた。
(…このままでも危険には変わりない。それならば…)
「あれ?みんなは?」
 克己の声に気付いたのか、浩多が呼びに入ってくる。浩多が彼に声をかけようとするのを遮るように雪乃は凛とした表情で二人を見据えた。
「北沢殿、杉本殿、大切な話が御座います。」
 雪乃の真剣な表情に二人もつられて同じ表情になる。そして、
「わかった。」
と力強く返事をした。





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 ある意味、真人の受難はここから始まる(笑)
 雪乃の決意。次回が「波乱」です。