夜中の敵襲。始。






 雪乃はその瞬間ハッと目覚めた。
(結界が破られた!)
 直感的に悟る。東桜神社の結界は雪乃が作っていたものだったからだ。部屋の隅の机の上にあるお札を手に取り、急ぎ外へ向かった。
「御方々!敵襲にございます!」
 その途中で中の人間を起こす。その声にいち早く星史が飛び起きた。
「何人だかわかる?」
「それはまだちょっと…」
「予想、外れちゃったね。」
 欠伸をしながらムクリと起きあがった大輔に笑いかける浩多。大輔は機嫌が悪いのか何も言わなかった。

「貴様ら何者だ?」
 先に外に出た雪乃は三人を睨みつける。
「名乗る必要はない。」
と康祐が言ったのに対し、
「はいは〜い!僕は俊雅でこっちがコースケくん。こっちは卯月。」
 俊雅は手を挙げながら明るく答えた。
「おい、トシ…」
 こめかみを押さえながら康祐は呻いた。
「さっすが俊雅。」
 耳に付く声で卯月は笑う。
「ま、別にそんなことはどうでもいいよ。」
 中から星史が出てくる。後ろに大輔、英明、遼が続いた。
「やあ、卯月だっけ?また負けに来た?」
 フフンとせせら笑う星史。
「なんですってぇー!?」
といきりたつ卯月を俊雅が押さえる。
「安い挑発ですよ。」
「相手にするな。」
「ふーん、あんた達は馬鹿じゃないみたいだね。」
「まあね。」
「で、何の用?大体想像はつくけどさ。」
 星史はあくまで笑っている。本心では、
(こいつら、ただ者じゃない…)
と冷や汗をかいていたのだがここは呑まれた方の負けだということを星史はわかっていた。
「決まってるでしょ?君たちの勾玉を奪いに来たんだ。」
 俊雅が不敵に微笑んで一歩前に踏み出す。
(来るっ!)
 全員が身構えた。

(あー、うぜぇ)
 近づいた気配に舌打ちをした。
 人の気配で目が覚める繊細な自分の神経に涙が出そうだ。玄関の横側にいたとはいえ、向こう側の奴らは気付いているのだろう。
「名乗る必要はない。」
「はいは〜い!僕は俊雅でこっちがコースケくん。こっちは卯月。」
 俊雅なる人物の明るく答える声を聞き、彰は頭が痛くなる気がした。視線をちらりと流し、このバカと同類か、腹に一物の克己タイプかとつい思う。彰には当然動く気なんて無い。
(仕方ねぇな)
 表の声を耳に入れつつ、誠の耳元で囁く。
「人参。」
 数秒ではね起きた誠が叫ぶより早く口を塞ぎ、黙ってろと睨みつけた。凶悪な程、目つきが悪くなっている。日頃の行いでよく知っている誠はこくこくと頷いた。でも、
「どーしたんスか。彰先輩。」
 そう極小の声を出した誠を彰は黙殺し、まだ動くなと身振りで制す。丁度星史が挑発した。のってこないだろうと思い、良平の口を塞ぎ頭を殴る。もちろん、起こすために。良平は起きるのと同時に叫びそうになったが声は出ない。口を塞ぐだけでは不十分だと思った彰が頭を後ろの方へ引き、喉がひきつるようにしていた。こうなると息をするのさえ辛い。
 全くどうしてこんな…というような、いらない知識を持っている男だ。良平の抵抗は封じられていた。…恐るべし。
「決まってるでしょ?君たちの勾玉を奪いに来たんだ。」
 俊雅の不敵な声を合図にお前の相手だと良平を放し、誠にも行くように促した。
 大人しく従っていた誠が奇襲よろしく敵の真中、俊雅狙いで蹴り出す。一歩踏み出していたが蹴りが届く前に俊雅は後方に軽く跳び、よける。蹴りの体勢で隙ができてしまった誠に迫った康祐を大輔と英明がフォローと牽制に出、康祐と対峙した。片足が地に着いたところで、力の反動を利用し、右の拳を打ち出してきた俊雅を遼が受ける。
「くっ」
 上背のある、どちらかといえばひょろりとした印象を与えるくせに、俊雅の拳は重く、遼は小さく呻き、膝が曲がりそうになる。更に俊雅の力が増す瞬前に誠が顔を狙って殴りかかり、遼にかかっていた俊雅の体重が消えた。
 向かう相手をざっと見た星史が違和感を覚えたが、とりあえず残りものに仕掛ける前にうらぁっと叫んだ何かが卯月に殴りかかる。
 俊雅と康祐は一対二の状態であっても、口元には笑みを浮かべ、どこか余裕が見える。卯月も自分の相手が良平だとわかると微笑を浮かべた。
 得体の知れない二人ではなく、一度押さえ込んだ方にするかと戸口から三歩分程離れた場所にいた星史は決める。俊雅の攻撃に相手に出なかったのは、身長差に不利を感じたから。知っているだろう情報の量を考えれば寧ろ、三対一で康祐を狙いたかったが無理だろうと思う。
(こいつらは格が違うな。)
 卯月を倒して、まだいたら。その時にしようと決め、舌打ちをした。
 槍を忘れた。
 開いたままの戸に叫ぼうと星史が息を継ぐ。
「星史さん」
 浩多が渡した「春」の字がある槍。
「ナイス。」
と返して卯月に目を向ける。卯月はからかうようにひらりひらりと良平で遊ぶ。
 星史は槍を返し、刃の近い方の柄を持つ。星史が卯月の方へ踏み出す。
「大輔さん!遼さん!」
 大輔に太刀を、遼には剣を浩多は投げ渡す。
「それ使って。抜かなくても良いから。」
 浩多の声を一緒に聞いた俊雅は楽しげに笑みを深くした。
「いいなぁ、あの子。わかってるんだ。」
 声、音は空気を震わせて出すというが俊雅は果たして本当にそんなことをしているのか、と疑いたくなる声を出す。事実、それは康祐にしか聞こえず、彼に何か言い返された。俊雅は非道いなぁと苦笑を浮かべた。
 浩多は一応誠の分の剣も横に置いて戸口で外の様子を窺う。浩多の目には誠はまだ武器を持つよりあの方がやり易そうなのだ。しかし、外で眠っていたくせに自分と呼応する、自分の為の武器を忘れているあたり…。
 ここから先の浩多の考えは省こう。彼の上がった唇の端を見ればわかる者はわかるのだから。





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 改めて、ここから戦闘開始。