真人が抱えて来た薪を燃やしそれを囲むようにして配置を決めると彰は早々に寝る体勢に入ってしまった。それに倣って翔太郎、結太も雪乃に渡された布団代わりの布にくるまる。誠はすでに盛大ないびきまでかいている。
健太は不安だった。
(命を狙われるなんて)
四神の御子というのは、巫女のように神へ祈ったり、そういった儀式的なことをするのだと思っていた。それが急に武器を持って戦うことになるとは。
自分の勾玉が反応した『白』と刻まれた太刀。こんなものを自分が扱えるとは思えない。もし戦いの途中で死ぬようなことになったら?いや、そうでなくても大怪我でもしたら。悪いことはいくらでも思い浮かぶ。
健太は大きく首を振ってその考えを消した。
とりあえず今心配することは一つで十分だ。今夜眠れるか。
隣の良平を見て思わず溜息をつく。彼はまだ理不尽を感じているようだった。
「何で俺が外なんだよ!」
「野犬がうるさいな。」
浩多のつぶやきに周りが凍る。彼らもまた、外と同じ寒さを感じていた。
「夜にその卯月って奴が襲ってくるってことはないのかな。」
何気なく言った竜馬の質問には大輔が答える。
「卯月が真美子の居場所を見つけたのは真美子自身が起こした光の柱を見つけたためだ。ということは卯月にこちらの場所を知る特殊な能力はないのだろう。暗くなってから探すことは不可能に違いない。そして卯月は一人で行動していたことから考えても俺たちが現れたことをいち早く上の者に伝えるための視察だろう。見つけたからには報告のために味方のもとに戻る必要がある。味方がどこにいるのかはわからないが、少なくとも今晩は大丈夫だろう。」
「もし襲撃があったとしても相手が一人なら平気だろう。彰はああ見えていい加減な奴じゃない。それぞれに自分の武器も持っているし。」
「そのうち二人は眠ってても戦えそうやしな。」
克己のあとを京介が続けて一同は笑い、それぞれに不安はあっても眠りについた。
「闇に乗じる。」男は笑う。「それもいいかもしれん」
雲が流れ満月に近づきつつある月が屋敷の庭を照らす。そこには異形の陰が無数に蠢いていた。
その光景に男の背後にいた女―晶子は息をのむ。禍々しさに眩暈がするようだった。
「あなたは、何をなさっているのかわかっているのですか。」
何度も繰り返した言葉だった。返事も予想はついていた。
「わかっているとも。」
「なら、なぜ…」
答えはない。もとより相手に向けた質問でもなかった。
「卯月が央の君を見つけたそうだ。」
晶子は目を見開く。「それでは…」
「いよいよというわけだ。―行け、物怪共。向かうは武蔵国浦和郷。勾玉はそこにある。いや、居ると言うべきかの。」
黒衣の男はくつくつと嗤う。晶子を振り返るが、その表情は逆光で見えない。
「遁甲のできる者は今夜中に着くであろう。地上を進む者も二.三日中には。」
「遁甲…」
妖怪の中には地中に潜り、その気脈を伝って移動できる者がいる。気脈に乗ることを遁甲という。これができれば千里の距離をも瞬時に移動することができる。
「それで…」
男は武蔵国の出来事をすぐに知ることができたのだ。
(やはりおかしい…)
遁甲ができるということは、その妖が尋常ではない証拠。それほどに強力な妖怪を人間が使役できるものだろうか。
(この男…この男の力だけではないのは確かだ。)
晶子は目を伏せる。
何か、強大な力がこの男の背後にある。それが何であろうと“混沌”を招く者であることに違いはない。
(四神の御子たち…)
会うことはかなうだろうか。異界より導かれし彼らに。
庭から異形の影は消えていた。
「まずは東桜神社を目指せ。」
月は雲に覆われ、闇が訪れる。
(助けて―)
ゆっくりと彼女の意識を闇が支配した。
「ふーっ。やっと着きましたね〜。」
闇の中で声が震えた。
「声が大きいぞ、俊雅。」
「あ、スミマセン。コースケくん。」
この二人、見た目は普通の人間なのだが、影が常人とは全く違う。異形なのである。
彼らは高等の鬼ゆえ、人間の姿を止めておくことができるのだ。
「早かったのね、俊雅、康祐。」
側にあった木の上から声がして、かさっと葉を揺らして少女が降りてきた。卯月である。
「奴らは?」
「ぐっすりおねんね。余裕よね〜。」
クスクスと笑いながら卯月は俊雅と康祐の前を軽い足取りで歩く。三人はすぐに東桜神社に辿り着き、まず卯月が足を踏み入れる。
「キャッ。」
卯月は小さく悲鳴を上げた。
「どうした?」
「結界が張ってあるみたい。」
「大丈夫?」
俊雅が卯月の顔をのぞき込む。
「ん、大丈夫。ちょっとビリッと来ただけ。」
言いながら卯月は軽く足を振り、しびれを取るような動作をする。
「ちょこざいな。」
康祐は呟きざま、サッと手で空を切る。
鳥居わきの気につけてあった幣が切れ、風に舞った。
Next
それぞれの夜。そして戦闘開始。けど、短いです。