一方、京介率いる一行は、光の柱の発生に気付かずに林の中を前進していた。先頭を行くのは京介と洋樹と誠。この三人は早くも親しくなったようだ。そのすぐ後ろに竜馬が、それに結太と健太が続き、最後尾には浩多と遼がいた。
「タカマさんっていうんだよね?どういう字書くの?」
浩多はにこやかに、無表情な遼に話しかけた。
「天の馬。」
「へー、かっこいいね。」
「…」
「ちなみに下の名前は?」
「しんにょうの付いてるリョウ。」
「んーと…あ、うん、わかった。ねえ、下の名前で呼んでも良いかな?」
「好きにしろ。」
「ありがとう。」
会話が成り立っているかどうか微妙なところではあるが、とりあえず遼も自分のことを話し始めた。
「おりょ、なんや?家か?」
京介が前方になにやら建物を発見した。
「どうする?」
洋樹は意見を求めるように二人の顔を見る。
「行くっきゃないだろ!」
何の迷いもなくむしろ嬉々として誠は言った。
「そやな。おーい、家があったんで、そこ行くでー!」
短く答えて京介は後続の人間たちに向かって叫んだ。
「え?マジ?」
いち早く嬉しそうに走ってきたのは結太。健太も緊張が解けた感じだ。
「とりあえず行ってみよ。人がいたら食料とか分けてもらえるかもしれへんしな。」
京介の言葉に全員が頷き、その建物へ歩いていく。
「神社…みたいだね。」
浩多が誰に言うとはなしに呟く。
どうやら京介が見つけ、目標物にしていた建物は神社の一部のようである。最初は木の陰に隠れていて見えなかったが鳥居もきちんと見える。
「どうしようか?」
再び浩多が口を開いた。
「このまま行っていいんじゃねえか?」
面倒臭そうに洋樹は答え、誠は
「さっさと行こうぜ。俺、腹減って死にそー。」
と、どっかの猿のような台詞を吐いて止まらずに進む。
「協調性のない奴らだな。」
「お前が言うなや、竜馬。」
こちらはこちらで進んでいく。
「あ、おい、待てよ。」
今イチこのテンポについていけない健太が結太と一緒に慌てて後をついていった。
「みんな元気だね。」
のほほんと言いつつも走り出す浩多。遼は相変わらず黙っている。
「意外にちっさいな。」
京介の言葉通り、その神社は鳥居と神像が納められているであろう建物しかなく、境内と言えるような広さもない。
「何て読むんだ、これ。東…?」
「トウオウ神社じゃないか?下の字は桜の旧字体だろ。」
「へー、東桜神社か。」
竜馬の説明に誠は納得した様子。京介はそれを横目で見て声をあげる。
「すんませーん、誰かおまへんかー?」
「何か御用ですか?」
建物の中から声がして、一人の少女が現れた。腰の少し上の辺りまである美しい黒髪を首の所で一つにまとめていて、おそらく美少女の部類に入る整った顔立ちの少女である。
八人を見るなり、少女は警戒の色を強めた。
「お主たち何者だ?ここの者ではあるまい。旅の者か?」
詰問するような鋭い口調である。
「旅の者っちゃ旅の者やけど、俺ら迷うてしもうたんや。」
「その言葉…京の者か?」
「みやこ?」
京介は首を傾げる。都とはどこのことなのだろうか、と。
「あ…!お主っ…!」
少女は四,五段の階段を慌ただしく降りて遼のもとに駆け寄った。
「その額のもの、どうしたのだ?」
言いながら遼の額の勾玉にスッと手を伸ばす。
「…っ!」
遼は咄嗟に少女の腕を掴んだ。少女もさすがに無作法だと思ったのか腕を引っ込める。
「すまない。」
「いや…いい。」
微かに頬を紅潮させる遼。沈黙が流れる。それを破ったのは少女の方だった。
「失礼しました。どうぞお上がりください。」
さっきとはうって変わって丁寧な口調で少女は八人を建物の中へ促した。
建物の中は九人が入るとかなり狭く感じられるが、なんとか全員が円状になって座れた。少女は神棚の前に座り、八人に深々とお辞儀をした。
「先程の無礼をお許しください。四神の御子たち。」
「シジン?」
聞き慣れない言葉と少女の行動に八人は困惑せざるをえない。
「私、雪乃と申しまして、この東桜神社に巫女として仕えております。」
それから八人は一通り自己紹介をする。
自己紹介が終わるとすぐに浩多が口を開いた。
「雪乃さん、さっきも言ったけれど僕たち迷ってるんです。」
「はい。」
「で、色々聞きたいことがあるんですけど良いですか?」
こういう時、人畜無害そうな彼の笑顔は役に立つ。その笑顔につられてか、雪乃も微笑んだ。
「なんでもどうぞ。」
「まず、今は何年でここはどこですか?」
「年、ですか?延久三年ですが。」
「え、延久三年!?」
浩多と竜馬が声をあげる。
「なにそんなに驚いてるんだよ。」
「そうや。」
脳天気に言うのは誠と京介。それに竜馬が怒鳴りかかった。
「お前らこそ何でそんなに落ち着いてるんだよっ!いいか?延久だぞ、延久っ!」
「んなこと言ったって俺ら知らねえもん、なあ?」
洋樹が言うと誠と京介は同意するように頷く。それを見て竜馬は頭に手を当てて首を振った。「まったくこいつらは」といった面持ちだ。
「延久三年だということが、どうかしましたか?」
少し心配そうな顔で雪乃が聞いてきた。
「あ、ちょっと待っててください。こっちで話つけますから。」
と浩多は言って京介たちの方へ向いた。
「どこから話そうかな…。えっとね、後三条天皇は延久元年に荘園整理令を出したんだ。」
「後三条天皇って?」
結太が口を挟む。京介たちも判らないようで、うんうん頷く。
「そういう天皇がいたんだよ。」
竜馬が吐き捨てるように言った。
「そういうことにしておいて。で、その整理令が出されたのは西暦でいうと一〇六九年のことなんだ。」
「一〇六九年!?」
「そう。だから延久三年っていうのはそれから二年後のことだから今ここは…」
言葉を溜める浩多。ゴクリとつばを飲んで待つ六人。
「平安時代なんだ。」
にっこりとそれでいて恐ろしい笑顔で浩多は言った。
「なんだってー!?」
ようやくことの重大さに気付いたようである。
「お前らもっと早く気づけよ…。」
呆れた感じで竜馬は呟く。
「そやかて受験なんて何年も前の話やし。」
「日本史受験じゃねえもん。」
「俺、推薦で入ったからv」
「俺、理系だし。」
それぞれアハハと笑い飛ばす。
遼は黙ったままで、唯一健太だけが
(きっと来年の日本史で重要なことなんだ。覚えておかなきゃ…。)
と深刻に受け止めていたが。
「ま、そういうことだから、僕らタイムスリップしちゃったみたいだね。」
さらりと浩多は言い放った。雪乃を除く全員が凍りつく。
「やべーっ!どうすんだよ、おい!」
誠の叫びは寒々しく響いた。
「それをこれから聞くんじゃない。ねえ、雪乃さん。」
「え、あ、はい。」
突然話が戻ってきたのに驚いた様子の雪乃。
「さっきの話の続きだけど、ここはどこですか?」
「武蔵国の浦和郷です。」
「俺たち、そのまま飛んで来ちゃったみたいですね。」
健太の言葉に全員が頷く。
「雪乃ちゃん、さっき俺らのことシジンの御子とか言うとったよな。なんや?それ。」
「あなた方、自分が何者なんかご存じないのですか…?」
「俺たち、ここに来たばっかなんだよ。」
「だから教えてくれないかな。」
苦々しく言う竜馬を押さえて浩多がやんわりと聞く。
「わかりました。…四神の御子というのはその名の通り、四神の力を受け継いだ人間のことを指します。」
「四神って何?」
誠の疑問には浩多が答えた。
「玄武、朱雀、白虎、青龍っていう伝説の生き物。東西南北を護ってるんだって。」
「その通りです。そして四神はそれぞれ四季、色、五行のうちの四つの元素、それから太陽の動きを司っています。伝承では四神の御子はその力を一つずつ受け継いでいるとされています。」
「伝承って?」
「『世界が混沌の海に沈むとき、四神の御子は異界より導かれ央の君に従い、秩序を取り戻すであろう』というのが口伝されています。」
あまりに現実離れした話に八人は呆気に取られているが雪乃は続けた。
「四神の御子は体のどこかに四神の力の破片で造られた勾玉を宿しているそうです。」
雪乃が言うとそれぞれ自分の勾玉に目を向ける。(誠と遼は見えなかったが。)
そして雪乃は遠慮がちに口を開いた。
「しかし伝承によると御子は一六人いるそうなのですが…。」
「ということは。」
「あと八人、僕らと同じような人を捜さなきゃいけないんだね。」
それから央の君っていう子も、と付け加えて、やっぱりにっこりと笑って浩多が言った。
Next
というわけで、彼らがいるのは平安時代が終わろうという頃。
設定は殆ど私と、というか悠姫の趣味ですね。いくら元に「遙かなる時空のなかで」があるとは言っても。