愛コンタクト??





 お互いが勉強机に向かい部屋の中はペンがノートを走る音のみとなる。
 克己はかれこれ2時間は勉強をし続けているが、彰はついさっきネットサーフィンをやめて勉強道具を開いたばかりだ。
 暫くは大人しく両名共にペンを走らせていたものだが、こつんと音を立てて克己はシャーペンを置くと静かに席を立った。部屋から出て行ったが、どちらも無関心の体で顔を向けることがない。
 それからすぐに克己は両手に湯気の上るコップを持ってくる。
「彰」
「サンキュ」
 受け取ったコップに口をつけて満足そうに笑う。
 それを見て克己は自分の席に着いた。
「毎回思うんだがな、彰。そんなにコーヒーばかり飲んで気持ち悪くはなりはしないか」
「なんだそりゃ…。ブラックだから言ってんの?お前」
「いや。そういうわけではないんだが…。すまん。忘れてくれていい」
「おう」
 そこで会話は終わり、再び各々で作業を始める。
 だが、今度は10分もせずに片方がペンを止めた。
 ギシリ…。
 体重移動で椅子が鳴く。
 もう一方はペンを走らせたまま、言い返した。
「予習は自分ですればこそ、というものだろう?」
「俺、まだ何も言ってないけど?」
 彰の冷ややかな声に克己は手を止め、椅子の背に己の背を預けて椅子を回し、後ろを向く。視線は合い、
「あってるよ」
 違っていたか、と問うてくる目に、だから彰は目を逸らした。真っ直ぐに見てくる笑顔は今年5年目のこととはいえ嫌なものがある。
 仕返しになるかと思って彰もじっと見返してみた。
「お前のことぐらい見なくてもわかるよ」
 にっこりと。中学のときに言われたのを用いれば、キャプテンスマイルと呼ばれた笑顔で返す。
 彰はそれとなく視線を外した。
(負けてるみてぇじゃねぇか)
 別に勝ち負けもないのだけれど。
「別にそんなことはないさ」
 克己は彰が思った直後に返す。
「言っただろう?見なくともわかるんだ。見れば尚よくわかるよ」
 克己が楽しげに笑う。だがそこに揶揄う色はなく、目はどこまでも優しい。なんとなく居た堪れなくなって、彰は自分の机に向き直る。すると、キャスターが滑る音がして、古典辞典と克己が1セットでくる。
「何でも聞いていいぞ」
「てめぇでやるんじゃねぇのかよ」
「ヒントとチェックは入れるけど、お前が自分で辞書を引くんだよ」
 彰の机に辞書を置き、自分は足を組む。
 お前は終わったのかと、克己に聞くだけ無駄になる。一週間分の予習は余裕で終わらせている男だ。
「さ。始めよう」



 ぐぐーと、彰は伸びた。
「お前って見かけによらずスパルタだよなぁ」
 克己はやさしげな風貌で、昔、教えてもらったときはそうでもなかったはずなのにと思いいつつ言うと、こちらは首を回しつつ、
「それは九代に文句を言ってくれ」
「なんでだよ」
九代アレに教えるようになって、こうなった」
 克己は僅かに視線を窓の外へ飛ばす。真っ暗な外はどこを見ても何も見えない。
「あー。なるほど。なるかもな、あいつに教えたら」
 彰はつい、納得する。
「しかも、説明しても半分ぐらいは聞いてないんじゃないかと思えることがしばしばでな」
 彰は深く納得した。
 克己を慕うものはかなり多いが、誠はそのなかでも筆頭ではないだろうか。
「だからってあのバカ用を俺に使うなよ。俺には俺用のをつくっとけ」
「そうだな。…これでも大分マシだと思うんだが、彰は少し言えば自分で全部やっていけるから。
 彰」
「なんだよ」
 不意に口調を改めて名前を呼ぶ克己に彰はぶっきらぼうに返す。
「俺はお前といる時間が一番落ち着けて好きだよ」
「今更、ナニ言ってんの、お前」
「「当然に決まってるだろ」」
 ハモッた声に笑う。
 無言の誘いに頷いて、ふたりの部屋は暗くなる。


『きったざっわ先パーイ!!あっれー?鍵かかってる。タク。先輩(たち)どうしたんだろ!?』
『お前に邪魔されずに眠ろうと思ったんだろ。
 ほら。戻るよ』
『そんなぁ、折角来たのに…。克己先パーイ』
『…お前ね、赤くなるなよ。名前を呼ぶぐらいで、乙女じゃあるまいし。それに愚痴りたいのは無理矢理連れて来られた俺のほう』
『え、えー?だって呼んでみたくないの?タクは』
『別に。俺は普段、克己さんて呼んでるし』
『タクばっか。ちっ、ちくしょー!!!』
 バシン!
『誠。消灯過ぎてるんだから静かにしなよ。あ、先輩方、どうもすみません』
 ずるずるずる


「…鍵をしめておいて正解だったな。拓巳には悪いことをしたが」
 窓から外に出ていながらも聞こえてくる会話を聞いて克己は疲れたような楽しそうな声を出した。
「笠原は問題ねぇだろ。俺はあいつがバカを引き摺って帰ってくのが怖ぇ。そもそもあのバカの所為で被害にあってんのは俺らだっての」
「それを言うな」
 克己はほのかに笑う。
 ありえただろうそれを描いて彰の機嫌は悪い。
「しっかしなぁ」
 隣に立っている克己を見て彰はぼそりと呟いた。
「なんだ?」
「別にぃ」
 人が悪いといわれる笑みで彰は否定する。信憑性のないことこの上ないような気がするが、克己は特に気にせず、それ以上聞こうともしない。
(奴等が尊敬してやまないキャプテンサマは脱出用の靴を寮部屋に常備してるってーのによ。まぁ、半分は俺が引っ張り込んだようなものだけど?)
 だが、一度誘った後からは何を言わなくても克己が自分から来るようになったのだ。
「それより彰。残りはいいのか?」
「ま。何とかなるだろ。あと1、2行だし」
「仕様がないな…」
 言いつつも彼らの足は止まらず、戻らず。
 夜道の散歩は楽しげな笑いを密やかに上げさせた。



 翌日。
 チャイムがもう鳴るという生徒の気が抜けるちょうどその時間。
「よし。小早川残りを訳せ」
 教師の声に彰と克己の目が瞬間的に合う。
 誰も何もわからないその一瞬で何があったのか。指されたときは確かに嫌いな顔を浮かべた彰は、己のノートを見つつ答えた。
「文法的には?」
 それも彰はすらすらと答える。
 終了のチャイムが鳴り終わり、隣席の友人がノートを覗き込んだ。
「って、お前、何も書いてないじゃないか。何でわかったんだよ?」
「あ?ああ」
 彰のお座なりな返事に、
「矢張りやっておくべきだったか」
克己が近づいてきて苦笑する。
「だな。さっきはサンキュ」
「いや」
 謎な会話にさっきの友人が突っ込む。
「北沢が教えたのか?答え。でも、お前すぐに答えたよな?」
「教えたといわれると痛いんだが、そうだな」
「どうやって!?お前ら席離れてんだろ」
 ぎょっとする友人に、
「目が合えば。なぁ」
「そうだな」
 答える克己に同意する彰。
「それより次移動だぞ」
「ああ。…おーい、行かねぇの?お前」
 呆然としていた彼に彰が声をかける。ドアの方を見れば克己と彰が並んで待っていてくれた。
「あ、ああ。……行く」
 間違いなく別次元の会話を聞いた彼だった。





         あとがき
 黎葵次の人のリク。高校時代のブツですね。
 馬鹿ップルといわれて最後思いっきり馬鹿ップルな雰囲気全開にしてみました。
 このふたりのアイコンタクトはこんなときにしか使いません。
 え?普段?普段は近くにいるんで。アイコンタクトすらいらない感じに分かり合えちゃってるんで。雰囲気?空気でオーケーです。



         新キャラでーた
   笠原 拓巳
 誠と同級生。馬鹿を上手く御すのが彼の仕事。
 性格は黒。克己側よりも浩多的な黒さ。
 怪しげな魔術に通じているという噂、有。
 「山野の毒草」だとか、そういった毒草系の本を持っている。護身術とかの本も。
 克己とは幼馴染み。なので部活が終われば「克己さん」「拓巳」呼び。だから誠は密かにずるいと常々思っている。もちろん拓巳はそのことを知ってる。確信犯ですから。
 趣味はピアノ。




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